2022年8月23日にヴィジュアル系の誕生から発展を辿る書籍『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(星海社新書)が発売されました。

それを記念して行われた、著者であるライターの冬将軍×ヴィジュアル系の記事や書籍を執筆してきたライターの藤谷千明氏のロング対談をお届けします!

XファンとBUCK-TICKファンの対立や、LUNA SEA「ROSIER」の魅力、昔と今のヴィジュアル系の比較など、様々な熱い話題が飛び交い、最後は殴り合いに……?

綺麗な情報ではない、当時のヴィジュアル系のリアルな話を書きたかった

藤谷千明(以下、藤谷):『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』、発売おめでとうございます。まずはこの本が生まれた経緯をお伺いしたいです。

冬将軍:ヴィジュアル系の歴史を自分流に上手く伝えたかったというところですね。年表的なものや資料性の高いものであれば、それこそ藤谷さんのほうが得意だと思うので。

自分はいわゆる“ヴィジュアル系のライター”ではなく、それ以外のロックやアイドルについて書いていることのほうが多いわけで。この本出すって言ったらアイドルヲタクの人たちから「冬将軍さんって、ヴィジュアル系も詳しいんですか?」と言われるくらいだから(笑)。

そんな自分がヴィジュアル系を書くなら雑談的な、“私の見てきたヴィジュアル系”にしたほうが面白いかなと。

藤谷:ヴィジュアル系の歴史でもあり、冬将軍さんの個人史でもありますよね。読後の感想は、たいへん「自意識過剰で我の強い」本でした(笑)。まあ自意識過剰で我の強くない人じゃないと、ヴィジュアル系について一冊なんて書けませんからね!

冬将軍:そこは“自分の本”だから!(笑) せっかく冬将軍の本を出すんだから自分の色を出さないでどうするっていう。だから自分がよくわからないことは書かないようにした。わからないことでも調べれば書けるけど、それを自分の本として書くのはなんか違う気がして。

10代のころ、のちにヴィジュアル系と呼ばれるようなバンドから教えてもらったことがものすごく多かった。そういうバンドからいろんな音楽を教えてもらったし、音楽以外のこと、ギター、ファッション、漫画、そしてヤンキー文化までね(笑)。そうやって自分と同じような体験をしてきた人はいっぱいいると思うので。

藤谷:そうですね。ヴィジュアル系ロックバンドに熱狂しつつ、同時代のヤンキー文化や少女漫画文化に夢中になって世紀末を駆け抜けていった人は、冬将軍さんと同年代の方々の中にたくさんいると思います。

例えば、第2章の“ファッションで巡るヴィジュアル系黎明期”の中に、BLACKやダブルデッカー、イエローハウスといったワードが出てくるじゃないですか。私は地方出身なので雑誌の広告でしか見たことないお店ですが、こういうワードに懐かしさを覚える人は多いのでは。“上っ張り”という表現なんて久々に見ましたね(笑)。当時の空気感みたいなものを大事にしているというか。

BLACKの雑誌広告 1994年「Vicious」(シンコーミュージック)Vol.08 P48より引用

冬将軍:そういう言葉選びはこだわっています。“つぶし”とか“裏ボタン”とかのヤンキーのセオリーもそうだし、修学旅行のお土産屋の話とか(笑)。リアルさですよね。古い雑誌を掘れば当時の情報は手に入るけど、そこに載っているものって厳選された綺麗な情報なので、この本ではもっと日常に沿った体験を書いています。

例えばヴィジュアル系が最初は蔑称だったことって今の若い子たちにはあまりピンとこないと思うんですよ。だけど実際我々の時代は、ヴィジュアル系と呼ばれるのが嫌だったバンドマンがいっぱいいたし、ファンも一緒になって抗っていた。現に自分がそうだったから。そういうリアルな話も体験談と伝えていきたいなと。

藤谷:冬将軍さんは神奈川出身とのことですが、やはりX(X JAPAN)やhideに対する思い入れは強いんですか?

冬将軍:本にも書いていますが、当時XファンとBUCK-TICKファンは対立というか相容れない関係にあって、私はBUCK-TICK派だったので、Xは聴いてはいたけど、同時には愛せなかった。

藤谷:昔は特に「バンドに操を立てる」みたいな空気、ありましたよね。いつからか「いろんなバンドを聴いてないなんてにわか」みたいな風潮が強くなっていきましたが。

それはさておき、私は81年生まれで、ヴィジュアル系バンドにハマったのが94年なんですね。「XとBUCK-TICKファンの対立」みたいな話は、伝聞や文献でしか知らなくて実感がないんです。例えば、90年代末には「ラルク派かGLAY派か」みたいなクラス内派閥があったという話もありますけど、対立するというよりは表明するのが大事みたいなライトなノリだったような。それとは、もう少しニュアンスが違う感じですか?

冬将軍:ギター少年たちの中でカッティングの布袋派と速弾きのhide派の対立があって。「どっちがうまいか?」って言い争いになる。音楽性もプレイスタイルも違うから比べてもしょうがないんだけど、当時はみんな必死(笑)。そういういがみ合いですよ。