ヴィジュアル系には音楽のジャンルがない、と言われるようになった大元

冬将軍:BUCK-TICKは黒服で「SEXしようぜ!」っていうゴシックなロック。片やXは派手な髪を立てて「暴れん坊将軍で行くぞ、ゴラァ!」っていうメタル。見た目も音楽もノリもまるで違う。音楽的な難しいことはわからなくても、あっちゃん(櫻井敦司)の艶っぽい低音ボーカルが好きな女の子は、ToshIのハスキーなハイトーンを受け入れられないんですよ、その逆もしかり。

まぁ、全身黒ずくめのBUCK-TICKファンと特攻服にサラシ巻いてるXファンが仲良くなれるわけがないじゃないですか(笑)。ただ、その後にお互いのバンドの変態ギタリスト同士である今井寿とhideが繋がったことをきっかけに、お互いのファンが理解し合うという流れがありました。

藤谷:EXTASY RECORDSっていう屋号があれば、どんな音楽ジャンルのバンドでもまとめられるっていう「無敵」さに繋がってきますね。

冬将軍: Xって正統なフォロワーがいないんですよ。LADIESROOMやTOKYO YANKEESは弟分ではあるけど、Xの音楽を継承しているわけではない。黒服でポジパンのZI:KILLとかハードコア寄りだった初期LUNA SEAとか、本当にジャンルがバラバラのバンドを集めたのがEXTASY RECORDSだった。いわばヴィジュアル系シーンの元になった集団、村ですよね。そしてそれが、ヴィジュアル系には音楽のジャンルがないと言われるようになった大元なのかなと思いますね。

藤谷:一方でLUNA SEAは大量にフォロワーを生み出したじゃないですか。本文中にも「ROSIER」がヴィジュアル系っぽい音楽の象徴のひとつとして取り上げられていましたし。

LUNA SEA「ROSIER」とは何だったのか

冬将軍:「ROSIER」の魅力は、わかりやすいドラマチックな楽曲展開なんですよ。低いボーカルから始まって、段々盛り上がってサビで爆発して、そのままギターソロになだれ込むという、大げさすぎるほどのドラマチックさが、ものすごくヴィジュアル系っぽい音楽だと思うんです。

Xのド派手なハードロック&メタル要素と、BOØWYの硬派なビートロック要素をひとつにして、ヴィジュアル系ロックにしたのが「ROSIER」なんですよね。

藤谷:それが膨大なフォロワーを生むきっかけになったのかもしれないですね。

冬将軍:でも「ROSIER」って確かに流行ったし時代を変えた曲ではあったけど、ヴィジュアル系四天王が出てきて盛り上がったときくらいには「もう『ROSIER』みたいな曲は古くない?」っていう風潮もあった気がする。LUNA SEA自身が、後期は「gravity」みたいなちょっとダーク路線に走っていった部分もあったし。

藤谷:その後のLUNA SEAの音楽性の変化も考えると、他のバンドに真似されすぎて嫌になっていたのかもしれない……。それに、実は「ROSIER」はLUNA SEAのシングルの中でも売上枚数的なところでは上位ではないですよね。

冬将軍:オリコン1位もとってないですもんね。

藤谷:次の「TRUE BLUE」でノンタイアップオリコン1位という当時からすると偉業を達成していますが(異常な早口)。で、今年2月に放送されたお笑い芸人のかまいたちの番組『かまいガチ』で、本家LUNA SEAが活動休止している間にと、LUNA SEAのコピーバンドを組む企画があったんです。そこでまず披露した曲が「ROSIER」だったんです。

これが一昔前だったら「I for You」だった可能性もあるのではないかと……。ドラマ主題歌でしたし、お茶の間の認知が一番ありそうじゃないですか。2017年に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』のヴィジュアル系特集でセッションしたのも「I for You」でしたし。

それが、ファン世代が世の中の決定権を握るようになったからなのか(憶測)、「やっぱりLUNA SEAといえば『ROSIER』だよね」っていう流れが出来たのではないかと……。でもまあ、お笑い芸人さんは、ロマンチックセクシーを筆頭に昔から「ROSIER」だったかも……。

冬将軍:そこはゴールデンボンバーみたいにヴィジュアル系をアイコンとしたバンドが定着した段階での再評価という面もあるのかなと思います。あとjealkbは、パブリックイメージとしてのヴィジュアル系ロックをしっかり体現していましたし。

藤谷:jealkbは最初はお遊びなのかと偏見の目で見ていたところもあるのですが、活動キャリアも長いですしね。話をLUNA SEAに戻すと、実際私も「CDTV」のチャートで3位に入っていたのを見て一目惚れした「ROSIER」新規(笑)なので、思い入れの強い人も多いのかな〜なんて。当時のリスナーとして冬将軍さんはどういう印象を受けましたか?

冬将軍:勝負に出たなと思いましたね。自分は神奈川県横浜市出身ですけど、町田寄りなんですよ。だから地元ではLUNA SEAはインディーズ時代から有名だった。当時の町田プレイハウスは今の場所ではなく駅から遠くて、閑静な街並みに不釣り合いな黒づくめのお姉様方がたむろしている光景をよく見てましたから(笑)。

当時、デビューしてもノンタイアップを貫くことを公言していた。「ROSIER」はタイアップ曲ではないけど、いわゆる売れ線に走ったなというか(笑)。PVも演奏シーンが中心でベタな作りですしね。「ガイコツマイク持つの!? BOØWYじゃん!」って(笑)。良くも悪くもこれまでのLUNA SEAの神秘的なイメージとは全然違う印象を受けたなぁ。

藤谷:私は宇宙一かっこいいPVだと思っていますが……? 他にも本の中では、ヴィジュアル系を構成する要素が色々と解説されています。BOØWYがいてBUCK-TICKがいてLUNA SEAがいて……という積み重ねの歴史ですよね。もちろんその前にXやDEAD ENDがいるし、挙げたらきりがないですが。

あと個人的に読んでて気になったのは、前書きの<日本のロックシーンはヴィジュアル系を軸に発展してきた、と言い切ってしまっても過言ではないと思っている。それくらいヴィジュアル系は面白い>という部分です。