NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。9月23日に放送された第40回「罠と罠」では、主人公・北条義時(小栗旬)暗殺をたくらんだ“泉親衡の乱”を発端に、この計画に関わった和田一族を滅ぼそうとする義時と、その挑発に乗る和田義盛(横田栄司)が、一触即発の駆け引きを繰り広げた。しかしこの件は、双方が矛を収める形で決着する。
これまでの物語を見ていると、このまま戦(いくさ)に突入してもおかしくないところだったが、今回はひとまず平穏な決着を見た。
意外にも思えるこの展開に至った理由は何か。直接的には鎌倉殿・源実朝(柿澤勇人)が義盛を御所に呼んで説得し、決起を思いとどまらせたことにある。
だが、義盛を危険な御所に呼び寄せることができたのは、「義盛を死なせたくないのです」という実朝の願いを聞いた母・政子(小池栄子)発案の女装作戦があればこそだった。
そしてもう一つ、今回の決着の要因として挙げられるのが、三浦義村(山本耕史)を北条の味方にしたことだ。
今まで、事を起こそうとする比企能員(佐藤二朗)や北条時政(坂東彌十郎)たちから誘われるたびに曖昧な返事でごまかし、状況に応じて有利な方に味方していた義村だが、今回は北条方につくことを事前に明言。
その義村の真意を見抜き、宿老に取り立てることを条件に、この交渉を成功させたのも政子だった。
さらに政子は念を押すように、実朝の前で義盛との和解を約束した義時が、なおも和田滅亡を諦めていないことを見抜くと、「戦をせずに、鎌倉を栄えさせてみよ!」と一喝する。
これで、ようやく義時は和田滅亡を諦め、部屋の外で様子をうかがっていた義盛と真に和解、寝返りを前提に和田方にいた義村を引き上げさせようとする。
前回のコラムで筆者は、政治の実権を握った義時が暴走する危うさを述べた。今回、早くもその片鱗が垣間見えたが、そんな義時にブレーキを掛けたのが、姉であり、亡き主君・頼朝(大泉洋)の妻である政子だったわけだ。
振り帰ってみれば、泰時(坂口健太郎)、朝時(西本たける)ら、息子たちが健在な義時とは違い、政子はこれまで大姫(南沙良)や頼家(金子大地)といった子どもたちを次々と亡くしてきた。
身近な者を失うつらさを身に染みて知る政子だからこそ、義時とは違う視点で状況を見つめ、判断することができるのかもしれない。
今回、義時に告げた「もう誰も死なせたくはないの」というせりふも、そんな政子ならではの説得力にあふれていた。
今後、全編のクライマックスとなる承久の乱に向かう中で、義時と政子の姉弟がアクセルとブレーキの役割を果たしながら、鎌倉幕府を動かしていくのではないか…。そんな展開が予感できた。
とはいえ、この回のラストではその政子の努力を無にするような急展開が待っていた。そして、番組公式サイトで公開されている次回予告には「和田合戦」の文字。
まずは次回がどのような展開を見せるのか。そしてその中で、義時と政子はどう立ち回るのか。今後の行方を占う意味でも、目が離せない回となりそうだ。
(井上健一)