スターを夢見る18歳の高校生・文也(藤原大祐)は母親と口論の後、勉強もせず居眠りを始める。やがて目覚めると、目の前に現れたのは中年の“謎の男”。状況を飲み込めないまま文也は、その男に導かれ、なぜか恋人との出会いや結婚など、自分が将来迎える人生の分岐点に次々と直面することに。果たして文也は正しい選択をして、ばら色の人生を歩むことができるのか。そして、謎の男の正体とは…。11月11日から公開される『追想ジャーニー』は、人生の選択をめぐる独創的なファンタジーだ。謎の男を演じた高橋和也が、作品に込めた思いを語ってくれた。
-高橋さん演じる謎の男と主人公・文也との軽妙なやりとりに笑わされながら、物語にグッと心をつかまれました。まずは、本作に出演を決めた理由を教えてください。
脚本を読んだ時点で、文也と謎の男の掛け合いがすごく面白かったので、直感的に「これはきっと面白い映画になる」と思ったんです。でも、実際に演じてみたら、文也役の藤原大祐くんのセンスがよく、すごくスリリングなお芝居ができたこともあって、想像以上に深い体験になりました。おかげで、「人生に後悔なんてない」と思っていたんだけど、「自分にも後悔はあるな」と改めて気づかされて。
-今までは後悔なく生きてきたと?
後ろを振り向かず、とにかく前だけ向いて生きてきた人間なので。でも、それなりにいろんな経験をしてきたので、この映画をきっかけに、ふと思い返してみたら、「あんなことを言わなければよかった」、「あんなことをしなければよかった」と、改めて感じたことがたくさんありました。
-人生を振り返るきっかけになったわけですね。
特に、謎の男と娘との関係が明らかになるシーンは、自分の実人生とすごく重なりました。娘に「なぜあんなことを言ってしまったんだろう?」と、傷つけてしまったことに対する後悔をものすごく感じて。親だったら誰でも、少なからずそういう後悔はあると思うんですけど、そんな感情が湧き上がってきて、涙が止まらなかったです。
-そんなことがあったんですか。
ただそれは、俳優としては至福の時間で、悲しいシーンだったけど、同時にすごく幸福感があるんです。演技をしていて、自分の人生に重なる瞬間って、俳優にとって実はすごく幸せな瞬間なんです。何年かに一本、そういう経験ができるかどうかで、そこまで自分自身の感情と重なるシーンって、なかなかないですから。それがこの作品にはあったんです。
-高橋さん演じる謎の男は、文也が将来迎える人生の分岐点に立ち会いながら、「よく考えろ」とアドバイスをしていきます。高橋さん自身が、若い頃の自分に「よく考えろ」とアドバイスしたい人生の分岐点はありますか。
僕自身は、自分がしてきた選択は間違っていないと思っているので、「もう一度戻ってあそこからやり直したい」とはあまり思わないんです。一見失敗したように思えることでも、実はそれが世界を広げてくれたり、新しい人との出会いになったりしているので。
-その一方で、謎の男は、売れないまま長年、役者を続けてきた男ですが、そういう生き方も否定しないと?
そうですね。売れなくても、夢を捨てられない、諦め切れない人たちを僕もたくさん見てきました。でも、スターの人たちより、そういう人たちからたくさんのことを教わりましたから。
-興味深い話です。
俳優やミュージシャンなど、厳しいショービジネスの世界で成功するのは何万人に一人で、みんながみんな、才能や運を持っているわけじゃない。圧倒的に多くの人は、自分の夢に向かってもがき続けている。でも、挫折を知った分、人間的により優しく、魅力的になれる気がします。それぐらい、人間的に味わいのある魅力的な人がたくさんいますから。
-なるほど。
大切なのは、成功することじゃないんです。挑戦すること、やり続けることに人生の価値や意味がある。「成功したからよかった。いい人生だ」ではないと僕は思うんです。
-おっしゃる通りですね。
この映画のいいところはそこです。「人生を失敗した」、「後悔だらけの人生だ」と思っている人に向かって、「そうじゃない。捨てたもんじゃないよ、あんたの人生」と肯定してくれる。僕もそういう考え方がすごく好きです。
-高橋さんも最近、かつて活動していたロックバンド「男闘呼組」の再結成が大きな話題になりましたが、心情的に重なる部分もあるのでしょうか。
この謎の男の気持ちが分かるのは、僕自身の男闘呼組の挫折に重なるからかもしれません。僕自身も18歳の頃は、文也と同じように「絶対にスターになってやる」、「自分の人生はばら色だ」と信じていたけど、24歳で活動休止になりました。そこから、それぞれの道を歩み出して29年後、こうして再び集まることができた。だから、会わなかったその29年間が大切だったんです。それがメンバーの一人一人を磨いたし、その間に挫折やいろんなことを味わったからこそ、本当に意味のある再結成になった。あのままとんとん拍子でいっていたら、こんなに素晴らしい経験は絶対にできなかったはずです。
-男闘呼組の再結成に加え、先ほど「この作品が人生を振り返るきっかけになった」という話もありましたが、50歳を超えた今、そういう人生の節目を迎えているのでしょうか。
そうでしょうね。それと、今この作品と出会えたことも、そういう巡り合わせの一つですよね。作品との出会い、監督やキャストとの出会い、役との出会いもご縁ですから。別に、僕じゃない可能性だってあり得たわけですよ。謎の男を違う人が演じていたかもしれない。でも、僕が演じることになった。それはやっぱり、何かが僕に演じさせたんだと思うんです。
-というと?
もちろん、監督やキャスティングプロデューサーが僕を選んでくださったからですけど、なぜ僕が選ばれたのかといえば、この役を演じる運とか縁みたいなものがあったからだと思うんです。その結果、僕もすごくいい経験ができたし、映画もすごく面白くなった。だから、やっぱり出会うべくして出会った映画だなと。
-高橋さんと同じ時代を歩んできた方たちをはじめ、人生を重ねた人たちには、とても共感できる作品だと思います。
僕の同年代も含め、人生を振り返るような世代の方には、きっと響く物語だと思います。映画初主演の藤原くんも素晴らしいお芝居をしているので、若い方も含め、ぜひ皆さんに劇場でご覧いただきたいです。
(取材・文・写真/井上健一)