年末の京都といえば南座の歌舞伎の祭典「吉例顔見世興行」。出演俳優の名前を大きく書いた看板が南座正面に飾られる“まねき上げ”は京の冬の風物詩だ。今年は三部制。歌舞伎の魅力を盛り込んだ演目が並ぶ中、第三部に近松門左衛門作『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』が「顔見世」に初登場する。主役の河内屋与兵衛を演じるのは片岡愛之助。「顔見世で、上方の役者で『油地獄』ができるのは本当に幸せ」と語る愛之助は、第二部『封印切』でも「大好きな役」の丹波屋八右衛門役と、関西人2役を演じる。50代となった愛之助が、今回の与兵衛役への意気込み、「顔見世」や上方歌舞伎への思いを語った。

「當る卯歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」 チケット情報

『女殺油地獄』は、油屋の大店・河内屋の放蕩息子・与兵衛が遊びの金で借金がかさみ、同業の美しい人妻・お吉(片岡考太郎)を惨殺するという物語だ。愛之助は2004年に与兵衛を初めて演じ、今回は10年を経て4回目。関西には13年ぶりの登場となる「いつかやりたい」と思っていた役。役作りは、これまで何度も与兵衛を演じた叔父の片岡仁左衛門に習った。仁左衛門から「等身大で、その年の若さで演じる与兵衛がいい」と言われ、50歳になった愛之助は「若さが大事というのは難しい役なんだと今回初めて感じました」と語る。

本作は文楽から歌舞伎となった義太夫もの。今回は「もう一回初心に戻って調べたい」と文楽の音源を聞いているところだ。「文楽の語りとはセリフや息が違いますけど、根っこは一緒とよくわかりました」。見どころは、油まみれで転び回りながらの殺害シーン。「油で滑るのがわざとらしく見えないように」という仁左衛門の教えの中「最初はわあっとやりますが、だんだん目つきが変わってくるんです」。今年は『夏祭浪花鑑』、『日本怪談歌舞伎(Jホラーかぶき)』に本作と「ずっと殺し続けている。来年はいい人の役もしたいな(笑)」。

今、歌舞伎俳優は東京勢が圧倒的に多く、上方歌舞伎の演目がかかることも少ない。「だから僕は上方歌舞伎がしたかったし、観ていただきたいんです」と愛之助。南座で初舞台を踏んだ時には夢にも思っていなかったという「顔見世」での主演演目。「上方の役者にとって非常に大切な「吉例顔見世興行」で、きっちりお役を勉強して勤めるのは非常に大事。これからも顔見世に出続けたいと思っています」。仁左衛門、そして昨年亡くした父の片岡秀太郎。「師匠たちの背中と生き様を追い続け、上方歌舞伎を大切に上方歌舞伎の一端を担っていきたいです」。

「當る卯歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」は、12月4日(日)から25日(日)まで、京都・南座にて。チケット発売中。

取材・文:高橋晴代