撮影:石阪大輔

2023年2~3月に東京・日生劇場ほか全国5会場で開催される「市村正親ひとり芝居『市村座』」。発起人にして唯一のキャストである市村正親本人に今回の構想を尋ねると、あふれ出るように問わず語りが始まった。

市村が1997年に旗揚げした一人芝居の企画である『市村座』。今回は毎度おなじみの口上をはじめ、役者生活50年で出演してきた40作品以上のミュージカルをその楽曲とともに振り返るパートが用意される。「デビュー作『ジーザス・クライスト=スーパースター』のヘロデに始まり、最新作の『オリバー!』で演じたフェイギンにいたるまで、僕が演じた役のバリエーションは実に多彩」「その舞台裏を、2020年に出版した『役者ほど素敵な商売はない』(新潮社)をもとにトークと生歌を交えてご紹介できたら」と笑顔を見せる。

その一例として、劇団四季在籍時における『オペラ座の怪人』ファントム役を離れた時のエピソードを挙げた市村。「怒りや悔しさを超えて、遠いところから『ミス・サイゴン』のテーマが聴こえてきたんだ。それでオーディションを受ける気になってね。落ちたら何も受けなかったみたいな顔をして、シラを切り通すつもりでいたの」と含み笑いを見せる。このサービス精神を劇場で目の当たりにしたら、思わずノックアウト必至だろう。

市村はこれまでの『市村座』において「文七元結」「子は鎹(かすがい)」「芝浜」といった落語を立ち姿で見せてきた。この“立体落語”と呼ばれる一人芝居仕立てのパフォーマンスには今回、三遊亭圓朝の「死神」が題材に選ばれている。「僕が西村晃さんの付き人をしていたときに、西村さんがいずみたくさんや藤田敏雄さんと組んで『死神』にまつわるミュージカルをやったんですよ。ピンキー(今陽子)が死神で、西村さんが葬儀屋。そういったご縁も、僕のキャリアを織り成すひとつだからね」と述懐した。

ラストには、『市村座』全シリーズの作・演出を務めてきた高平哲郎、音楽を手がける上柴はじめが制作した新曲を披露するという。「僕の役者生活50周年をひとつの歌にしてもらうの。高平さん・上柴さんの目や耳に俳優・市村正親はどう映っているのかな。完成が楽しみだよね」──。そう笑って、市村はインタビューを結んだ。

東京公演は、2023年2月26日(日)~28日(火)に実施。その後、3月3日(金)に大阪・NHK大阪ホール、3月4日(土)・5日(日)に福岡・博多座、3月8日(水)に市村の故郷である埼玉・ウェスタ川越 大ホール、3月10日(金)に宮城・電力ホールと巡演する。

取材・文:岡山朋代