NHKで好評放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。12月4日に放送された第46回「将軍になった女」では、源実朝(柿澤勇人)の死に伴い、4代目鎌倉殿の座をめぐる駆け引きが繰り広げられた。
これに関する騒動の一つとして、序盤では源頼朝のおいに当たる阿野時元(森優作)の反乱計画が発覚。主人公・北条義時(小栗旬)が未然にそれを鎮圧したが、時元は自害し、時元をそそのかした母の実衣(宮澤エマ)が処罰の対象になってしまう。
「たとえ肉親であっても、罪を犯せば罰しなければならない」とする義時や大江広元(栗原英雄)に対して、姉の政子(小池栄子)や息子の泰時(坂口健太郎)、弟の時房(瀬戸康史)らは助命を訴える。
意見が割れる中、「耳と鼻をそいで流罪」と決まりかけるが、泰時が「血を分けた妹にそんなことをすれば、人の心は離れます」と反論。義時はこれを「だからといって許せば、政は成り立たん!」と一蹴する。
だがこれは、権力者としての立場上の発言であり、義時としての本心でないことは明らか。本心であれば、そのまま牢に閉じ込めておくことなく、すぐにでも処罰したはずだし、そもそも「だからといって」などという言い方はしないだろう。この言葉が絶叫するような形になったのは、義時が自分自身に言い聞かせるためでもあったに違いない。
ここで思い出されるのが第38回、義時の父・時政(坂東彌十郎)とその妻・りく(宮沢りえ)が実朝から鎌倉殿の座を奪おうと画策したときのことだ。
この時も今回同様、厳しい決断を下そうとする義時に対して、政子や泰時、時房らが助命を嘆願。実朝本人の願いもあり、何とか2人の命を救うことができた。しかも、大江ら宿老たちによる合議の末、伊豆への流罪と決まった時、義時は「息子として、礼を申し上げる」と頭まで下げている。
今回、義時は同じように肉親が犯した罪に向き合うことになったわけだが、時政の時と大きく違うのは、義時自身が幕府の頂点に立っていることだ。もはや主君・実朝はこの世になく、上の人間の判断を待つことはできない。義時自身が決断するしかないのだ。
そう考えると、「だからといって許せば、政は成り立たん!」という一言が、より重く、悲痛な叫びにも感じられてくる。そこから浮かび上がるのは、頂点に立った権力者のごう慢さよりも、誰も頼ることができない義時の孤独と悲しみだ。
幸い、実衣は最終的に、尼将軍となった政子の力で助命された。政子が尼将軍の地位に就いた際、「姉上にしては珍しい。随分と前に出るではないですか」と告げた義時の表情は印象的だ。
いつもの厳しさは残しつつも、ほのかに穏やかな気配が漂っていたのは、気のせいではないだろう。政子が自分と同じ土俵に上がってくれたことで、一人で鎌倉を背負う必要がなくなり、「肩の荷が軽くなった」とでもいうような、孤独から解放される安心感が生まれたように思える。
義時と政子、鎌倉を背負うことになった2人には、承久の乱という朝廷との対決が待っている。果たしてタッグを組んだ姉弟が最大の危機をどう乗り越えていくのか。残り2回、心して見届けたい。
(井上健一)