日本を代表する伝統芸能のひとつ、人形浄瑠璃(文楽)は太夫・三味線・人形が一体となった総合芸術。伝統を守りながら進化を続け、今もなお高い人気を誇っている。これまで何度も博多座で開催されている「博多座文楽公演」だが、今年は新作浄瑠璃『端模様夢路門松』が上演されることも話題だ。公演を前に、人形遣い(重要無形文化財保持者)の桐竹勘十郎に話を聞いた。

「今回上演する新作浄瑠璃は、私が30代の頃に作った作品で『つめ人形』が主人公です。『つめ人形』とは、一人遣いの素朴な人形のこと。三人遣いの人形に交じって端役で芝居を盛り上げてくれる存在で、若い人が足遣いで修行しながら端役のつめ人形を遣います。私も若い頃によく遣いました。なので、非常に愛着がある存在なんです」

ある時、端役の人形たちだけで、お芝居ができないかと若い頃にふと思いたったのがきっかけ。自分で脚本を書き、鶴澤清介氏の作曲で作品が誕生した。「普段あまり目立たないつめ人形の一人が、『つめ人形はいやや、三人遣いの人形になってみたい』と夢を見る物語です。随分長いこと上演されてなかったのですが、最近また復活することができて嬉しいですね。ぜひ博多座でもご覧いただきたいと思います」

もうひとつの演目は『曲輪文章 吉田屋の段』(※文章は「文」+「章」の1文字)となる。「近松門左衛門の『夕霧阿波鳴渡』を原作に改作したものです。夕霧という大坂の有名な花魁と、大店の若旦那で二枚目ですが紙衣(紙で作った着物)を着ないといけないくらい落ちぶれている伊左衛門の二人の物語。この夕霧と伊左衛門のくどきがみどころです。全盛の花魁と、紙衣で落ちぶれている伊左衛門の対比がおもしろいですね。今回は私が夕霧をやらせていただいて、吉田玉男さんが伊左衛門を遣いますが、どちらも難しい役です」。

実際に文楽を観ると、とても人形とは思えないリアルな動きに驚く。立役と女形の違いはもちろん、表情までもが全く変わって見えてきて、命が吹き込まれていると実感する。聞けば立役と女形は人形の持ち方が全然違うため、使う筋肉も変わってくるとか。「立役ばかりやっていると構えが固まってしまって、女形の構えができなくなるんです。まんべんなくやらないと体が固まってしまうというのはありますね。でもお客様の反応で全ては報われます。博多座のお客様は本当に熱くて、以前『三番叟』をやらせていただいた時に手拍子が起こったことがありました。本当に客席から熱を感じるという印象です。今回も楽しみに伺います」

公演は12月22日(木)・23日(金)福岡・博多座にて。チケットは発売中。