音楽の楽しみ方の主流は、CDから音楽配信へと移行する――随分前からそう言われながらも、決定的な音楽配信サービスは登場していないのが現状だ。はたして、現時点で“使える”サービスはどれなのか。今後の音楽配信、そして音楽界はどう変化していくのか。電子書籍『音楽配信はどこへ向かう?』の著者である、音楽評論家の小野島大氏に話を聞いた。
日本はいまなお「世界でもっともCDが売れている国」
――電子書籍として刊行された『音楽配信はどこへ向かう?』は、この5年間の音楽配信の動きを継続的にレポートした内容です。まずは、この間の大きな変化を振り返っていただけますか。
小野島:いまから5年前、2008年当時の音楽配信を考えると、ほとんどダウンロード販売しかありませんでした。唯一、タワーレコードが展開した『Napstar』という音楽配信サービスに定額制がありましたが、普及にはほど遠いままサービスが終了。PC用の配信はほぼiTunes一択という状況で、全音楽配信の90%をモバイルが占めていました。
当時盛り上がったのは『着うた』。これは携帯電話の着信音代わりであって、まともに楽曲を聴くことはなかなかできません。音楽好きの聴き方とは程遠いものだったし、僕自身もあまり興味がなかった。そこで、なんとかPC配信を盛り上げようとしましたが、業界の誰もがパッケージビジネスから配信へのビジネスモデルの転換が必要だとわかっていながら、「既に確立しているCD販売のビジネスシステムを崩したくない」という思いがあり、なかなかうまくいきませんでした。
そうこうしているうちに、いわゆるガラケーからスマートフォンに移行していく過程で『着うた』が頭打ちになり、さまざまな新しいサービスが登場します。
――Ustreamを使ったストリーミングや動画配信などですね。
小野島:音楽業界はこれから、レコード会社や販売店などのユーザーとミュージシャンをつなぐ「中間業者」が簡略化して、よりダイレクトにつながるシステムが構築されていくと思うのですが、その可能性の一端がUstreamで開かれました。iPhone一台あれば、素人でも何千、何万という人に音楽を届けることができる。単に「CDの代わり」にとどまらず、音楽をめぐる環境の大きな変化を予感させるものでした。
とはいえ、日本はいまなお「世界でもっともCDが売れている国」と言われていて、レコード会社や販売店の力がまだそれなりに強い。一方、欧米ではロック系ミュージシャンがどんどんメジャーから離脱していて、ここ数年、毎月の洋楽のリリース表にはR&BとHIPHOPばかりが並んでいる。日本もいずれそういう方向に進んでいくでしょう。