岩井秀人が脚本・演出を手がける、PARCO劇場開場50周年記念シリーズ ミュージカル『おとこたち』。すでに歌稽古を始めている岩井とキャストのユースケ・サンタマリアが、現在進行形の想いを語った。
岩井が主宰するハイバイによって2014年に初演、2016年に再演された本作が、今回は前野健太による音楽でミュージカルとして立ち上がる。岩井と前野は『世界は一人』(2019年)でタッグを組み、オリジナル音楽劇を創作した経緯が記憶に新しい。劇中で描かれる“おとこたち”4人のおかしくも壮絶な人生は、初演時にNHK総合『クローズアップ現代』で取り上げられ、求められる理想像と現実のギャップに苦しむ男性の生きづらさや幸せについて議論されるきっかけになった。
ミュージカル化の経緯を問われた岩井は「音楽があると、観客に届くドラマの感動や衝撃のMAX値や飛距離みたいなものが圧倒的に思えて」とコメント。さらに「これまで『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』のように社会的なテーマのある作品でないとミュージカルは成立しないと思っていましたが、今回のキャストでもある吉原(光夫)さんや(大原)櫻子ちゃんが出演していた『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』(2018年)を観て、話のスケールが小さければ小さいほどミュージカルにする必然性があると感じたんです」と続く。
2011年に岩井が作・演出を手がけた「その族の名は『家族』」に出演しているユースケは「岩井くんの演出方法や舞台に込める熱、作品内容……すべて好印象で、またあの感じを味わいたいと思ってオファーを受けました」と信頼を寄せる。そのユースケに岩井が託したのは、人生との距離感がうまく取れない「山田」。共演の藤井隆、吉原、橋本さとしの演じる山田の友人たちが起伏に富んだ人生を送るのに比べて、ドラマ要素の少ないキャラクターだ。
「傍観者に徹するしかない山田って、実はいちばん哀しい存在。マエケン(前野の愛称)のつくる楽曲にもメロディが無くてさ」と心なしか淋しそうなユースケ。すると岩井が「山田を除く登場人物には、大きな葛藤を抱え裏切りにも遭うような人生のドラマが盛りだくさん。だからおのずと旋律も豊かになるんです。一方でユースケさん扮する山田の“漂うしかない切実さ”はラップに込めようと思っていて」と構想を語る。これを受け、ユースケは「もうこうなったら“ラップのようなもの”を新しく創作するつもりでやります。僕に求められているのは歌のうまさではなく、きっと“僕にしか歌えない歌”でしょうから」と意気込んでみせた。
公演は2023年3月12日(日)~4月2日(日)、東京・PARCO劇場にて。その後、大阪や福岡にも巡演する。ぴあでは東京公演のチケット購入時に座席指定できる。
取材・文:岡山朋代