新国立劇場のワーグナー《タンホイザー》が1月28日(土)に幕を開けた。ハンス=ペーター・レーマン演出のプロダクションは、2007年に新制作され、今回が4度目の上演となる。
氷のような透明な柱が移動して官能世界と現世を行き来する舞台(美術・衣裳:オラフ・ツォンベック)。いきなりのバレエ・シーン(東京シティ・バレエ団)がある版での上演で、美しく幻想的だ。
充実の歌手陣。現代を代表するヘルデンテノール、ステファン・グールドの題名役がもちろん貫禄の出来栄えなのだけれど、それ以上にエリーザベト役のサビーナ・ツヴィラクに惹かれた。スロヴェニアのソプラノで新国立劇場初登場。第2幕から登場し、〈殿堂のアリア〉を歌い出してすぐ、声の表情の多彩さに聞き耳を立てた。役柄さながらどんどん聖性を増していき、第3幕の〈エリーザベトの祈り〉は神々しいほど。特に弱声の巧みさ・美しさは絶品で、あの深い祈りがあってこそ、直後のヴォルフラム(デイヴィッド・スタウト)の〈夕星の歌〉も引き立つというもの。ヴェーヌス役のリトアニアの若手メゾ・ソプラノ、エグレ・シドラウスカイテは初来日。余裕のある広い声域と濃厚な表現で存在感を示す。
日本人キャストも頼もしい。日本が誇るバス妻屋秀和の領主ヘルマンはじめ、鈴木准(ヴァルター)、青山貴(ビーテロルフ)ら「歌びと」たちが、ソロでもアンサンブルでも際立った歌唱。短い出番ながら牧童役・前川依子の透明なソプラノも一服の清涼剤のようなインパクトを残している。
合唱シーンも圧巻だった。いつもどおりの高水準の新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)。コロナ禍のオペラ上演はどこも、感染対策のため、人数を減らしたり、舞台裏で歌ったり、合唱シーンに工夫を強いられてきた。舞台いっぱいに広がった合唱の声の“圧”を浴びるのは久しぶりだ。しかも〈大行進曲〉や〈巡礼の合唱〉など、オペラ屈指の名合唱曲のある《タンホイザー》ならなおさら。やっぱりこうでなければ。オペラが戻ってきた!と感慨を深くした。
指揮のアレホ・ペレスは新国立劇場初登場だが、二期会や読売日本交響楽団など日本でもすでに定評。正攻法のどっしりとしたワーグナーで、しかも緩むところがない。ピットの東京交響楽団も豊かなサウンドで応えていた。
新国立劇場《タンホイザー》は2月11日(土・祝)まで全5公演。上演時間は約4時間(休憩2回含む)。
(宮本明)
撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場
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