2018年のトニー賞10部門を制したミュージカル『バンズ・ヴィジット』の日本版初演が2023年2月7日(火)から日生劇場で開幕。初日を前にした6日(月)、プレスコールと会見が行われた。
エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊がイスラエルの空港に到着するところから物語は始まる。彼らはペタハ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するようにと招かれたのだが、いくら待っても迎えが来ない。楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、若い楽隊員のカーレド(新納慎也)が間違えたのか、彼らの乗ったバスは、目的地と一字違いのベイト・ハティクヴァという辺境の町に到着してしまう。
一行は街の食堂を訪れるが、もうその日はバスがない。演奏会は翌日の夕方。食堂の女主人・ディナ(濱田めぐみ)は、どこよりも退屈なこの街にはホテルもないので、自分の家と常連客イツィク(矢崎広)の家、従業員パピ(永田崇人)と店に分散して泊まるように勧めて──。
国も宗教も文化も違う、遠い隣の国であるエジプトとイスラエル。たった一晩、二つの民族が日常の中で交わり、溶け合っていく。ストーリー上、何も大きな出来事はない。それでも場面場面で感情が動かされ、旅先で出会った見知らぬ人と通じ合った日々を懐かしく思ったし、観劇後は長い旅を終えたような高揚感と切なさを感じた。
本作の最大の魅力はやはり音楽。警察音楽隊が芝居をしながら舞台上で生演奏を繰り広げるのだが、いわゆる歌唱曲以外にも、場面転換の際に流れる音楽もしっかり聴かせる演出。民族音楽やジャズ、即興演奏を得意とするヴァイオリニストの太田惠資、サックス・クラリネット奏者としてフリー ジャズを中心に幅広い分野の第一線で活躍する梅津和時ら、錚々たるミュージシャンが奏でる音楽にぜひ酔いしれてほしい。
トゥフィークを演じる風間杜夫は「いっときも早くお客様の前で演じたい。緊張感もありますけど、初日の幕が開くことを楽しみにしております」と挨拶。
ディナ役の濱田めぐみは、本作の楽曲の見どころを問われた際、「稽古場で初めて楽隊の音色を聞いたとき、みんなから拍手が沸き起こった」と生バンドの魅力を伝えつつ、「楽曲は素晴らしいのですが、歌い手側はものすごく難易度が高い。今までやった演目の中でトップクラスで稽古を重ねたぐらいメロディが難しかった」。
カーレドを演じる新納慎也。実際にブロードウェイで本作を観た経験がある新納は「あまりミュージカルでは聞いたことない中東の音楽にすっかり心奪われて、すごく癒された」と当時を振り返りつつ、「(日本版の)この真っ赤なセットには驚きました。衝撃的なセットの中で、とても繊細な人々の日常の物語が繰り広げられます。日本人の琴線に触れる演出なのでは」などと話していた。
東京公演は2月23日(木・祝)まで。その後、大阪・愛知にて上演。
取材・文・撮影:五月女菜穂