モーツァルトのオペラをヨーロッパの楽士たちの演奏に乗せて能、狂言、文楽の達人たちが演じる。そんな斬新な面白さで人気を博す『狂言風オペラ フィガロの結婚・管楽八重奏版』が3月10日(金)、大阪・大槻能楽堂と、3月12日(日)、東京・観世能楽堂で上演される。それぞれ昼夜の2公演。大阪は4年ぶり、東京は5年ぶりとなる待望の公演だ。
2002年より狂言を中心に演じられてきたこのシリーズに、能と文楽が合流したのが2018年のこと。芸術総監督に人間国宝の大槻文藏を迎え脚本・演出を笛方藤田流の故・藤田六郎兵衛が手掛けた舞台は、西洋と日本の芸能が出会うものとして高く評価された。が、折からのコロナ禍により、管楽合奏を担当するスイスの演奏団体クラングアートアンサンブルの来日が不可能に。『狂言風オペラ』は翌2019年、大槻能楽堂での再演を最後にしばしの沈黙を余儀なくされることとなる。(画像は2019年公演より)
公演を望む声は多く「日本の演奏家を起用しては?」「録音では代替できないか?」といった提案も寄せられたという。しかし出演者一同は「洋の東西の芸能が同じ時間、空間を共有してこその『狂言風オペラ』」という見識に立ち、妥協することなく時期を待った。こうした中、2022年には『狂言風オペラ特別公演』も行われている。シューベルトの歌曲「魔王」をハイライトに、やや趣を異にした『特別公演』ではあったが、クラングアートアンサンブルからはメッセージが寄せられ、また能楽から大槻文藏、文楽から太夫、豊竹呂太夫、人形の桐竹勘十郎が舞台に上っての座談会では各人による『狂言風オペラ』継続への思いが語られた。それらは実に興味深く『狂言風オペラ』本編への期待をつなぐものとなった。
こうした流れを経て行われる今回の公演である。ひさびさに来日するクラングアートアンサンブルも含め、それは出演者にとって一層の熱の入ったものとなることだろう。若い女中のスザンナに手を出そうとする伯爵にフィガロや伯爵夫人らが協力して一泡吹かせるという物語が、京の都を舞台に伯爵を中将在原平平(ありわらのひらひら)、伯爵夫人を北の方、橘の上に姿を変えて描かれる。豊竹呂太夫の語りと鶴澤友之助の三味線に乗せて桐竹勘十郎操る人形が身勝手な中将を演じれば、観世流シテ方、赤松禎友が女面、女装束で憂愁の橘の上を舞うといった具合。名人たちの至芸が繰り広げられる中、すべてをユーモラスな笑いにつなげてゆく野村又三郎ら狂言方の動きが圧巻だ。和洋の芸能を結集し、美しさと軽やかな笑いへ誘う「狂言風オペラ フィガロの結婚・管楽八重奏版」。その唯一無二の世界を堪能してほしい。チケットは発売中。
文:逢坂聖也