浅井:昔はヴィジュアル系についてちょっとでも馬鹿にしたようなニュアンスを見せるとすごく嫌われるところがあったんですけど、今はヴィジュアル系をやってる人たちが「ヴィジュアル系って変だよね」って言っちゃう、ちょっと自虐的なノリが割とウケている。

そういう文化の発祥がどのへんにあるのか明確には分からないけど、インターネットと関係があるとは思いますけどね。そういう風潮を一番表してるのが人格ラヂオの悠希君だね。
 

人格ラヂオのボーカル悠希さんはバンギャルやヴィジュアル系文化を弄る毒舌キャラクターを確立し、人気を博す。現在はソロ活動中。
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浅井:彼がアメブロを始めた途端、当時バンド自体は全く表立った活動をほとんどしてないのにブログがアメブロのヴィジュアル系バンドマンランキング上位になっちゃって。あれがもう象徴的だったんだよなぁ…。

昔のヴィジュアル系だったら、すごく反感を買ってたんでしょうけど、今はそういうのをゲラゲラ笑うっていう。「私らの生活おかしいよねー、…でもやめらんないのよね」みたいな。そういう風潮が広まっていったんだと思う。

ほんとに手扇子やヘドバンが世界で一番カッコイイノリだと思ってやってる人は少ないと思うんです。でもこれが面白いし好きだからやってる、みたいな。

――外部の人から笑われるとそれはそれで腹が立つわけですが(笑)、内部で自嘲するというノリはネットによってかなり定着しましたよね。そういった風潮だからこそゴールデンボンバーがブレイクしたところはあります。

で、ヴィジュアル系のファンの間でゴールデンボンバーがブレイクするっていうのはある程度想像がついてた部分はあるじゃないですか。でも、たとえば紅白歌合戦に出たり、ドンキホーテに樽美酒さんのお面が売っていたりするっていうような状況…、社会現象になるというか、一般層に受けた理由っていうのはどこにあると思いますか?
 

浅井:正直、ヴィジュアル系が全然好きじゃない人がゴールデンボンバーの何を面白いと思ってるのか僕にはあんまりよくわからない部分もあって。それはもうパフォーマンスひとつひとつが全部そうなんですけど、これまでのヴィジュアル系バンドや文化のネタを彼らは細かく随所に盛り込んでいて、それが「わー面白いこいつら!」と当時の僕は思ってたんですけど。

今の売れ方を見ると明らかに…そんなにお客さんは元ネタを知らない人も多いでしょ。

たとえばゴールデンボンバーがライブでJanne Da Arcの『ヴァンパイア』のパロディをやっても、お客さんはその元ネタ知らないで楽しんでるっていうのはどういうことなのかなって、僕も正直よくわからなくて。

――直木賞受賞会見で作家さんがタミヤT着て金爆を絶賛する時代がくるとは思いもしませんでした。

浅井:猫も杓子もって感じですよね。

――なんでこうなったのか。

浅井:うん…。僕にも何であんなに売れたのかよくわからないですけど(笑)。今、ヴィジュアル系のシーンでやってる人達はみんな悔しがってると思いますよ。
だけど可能性というか、インパクトがあって面白いことやって曲が良ければちゃんと売れるんだってことが分かったので励みにもなるでしょうしね。