三浦貴大 (C)エンタメOVO

 3月10日から公開された『Winny』は、実際に起こった映画やゲーム、音楽などの違法アップロードが社会問題化した“Winny事件”の映画化だ。そこで利用されたソフトウェア“Winny”の開発者、金子勇が逮捕され、裁判では「殺人に使われた包丁を作った職人は、逮捕されるのか?」とその正当性が争われることになった。本作で金子(東出昌大)と共に裁判を戦った弁護士・壇俊光を演じたのが、「仮面ライダーBLACK SUN」(22)、『キングダム2 遥かなる大地へ』(22)などで活躍する三浦貴大。撮影の舞台裏や本作を通して感じたことを聞いた。

-最近の日本映画には貴重な、実在の事件を題材にした社会派の力作ですが、オファーを受けたときの気持ちは?

 難しいテーマだと思いました。実在の事件で実在の人物を演じなければいけないので。ただ、僕も昔からインターネットはよく使っていたので、当時から“Winny事件”も概要は知っていたんです。だから、当時の記憶をたどりながらやるのもいいかなと。

-出演の決め手になったのは?

 決め手は、弁護士として現役で活躍している壇先生を演じることに対する役者としての興味です。そういう機会はめったにありませんから。ただ、ご本人とお会いしてみたら、自分とあまりにも違い過ぎて、これは難しい役を引き受けてしまったなと(笑)。関西の方ということもあるんですけど、弁護士だけあってすごく弁の立つ方で、裁判では相手の言葉を引き出すためにわざとあおるなど、いろんな手法を使うそうなんです。でも、僕にはそういう経験がなく、自分にはない思考回路を持っている方だったので。

-映画を見ると違和感なくハマっていますが、役へのアプローチはどのように?

 壇先生の弁護スタイルや日常生活の雰囲気はもちろん大事です。でも、この映画のテーマとしては、壇先生が金子さんにどういうまなざしを向けていたのか、どんな思いで“Winny事件”に当たっていたのか、そこが一番大事だと思っていました。

-なるほど。

 壇先生の中でも特に大変な裁判だったと思うんですけど、金子さんの話をするとき、すごく楽しそうなんです。「金子さんは一つ上の弟」とおっしゃっていましたが、どこか兄弟や親友のように見ていたところもある。もちろん、裁判のクライアントとしても見ていた。壇先生が金子さんに抱いていたそういうイメージを大事にしようと。そこから徐々に、役の輪郭を作っていきました。金子さんと壇先生の話なので、2人の関係性が出た方がいいですし。

-2人の関係は、どのように掘り下げていきましたか。

 金子さんは既に亡くなっているので、壇先生のお話を聞く以外になく、壇先生が書かれた本(『Winny 天才プログラマー金子勇との7年半』)も読みましたが、現場にもいらっしゃったので、直接お話を伺えたことがとても役立ちました。

-具体的にどんな話をしたのでしょうか。

 例えば、「裁判で金子さんが余計ことを言ってしまったとき、どう思っていたんですか?」と聞いてみたら、「いやホンマ、こいつ何やってんねん、と思いましたけどね」と答えてくださったことがあります。それを文字で読むと冷たく厳しい印象を受けるんですけど、実際にご本人から聞くと「しょうがねえな、こいつは(笑)」と面白がっている様子や、体温の温かさみたいなものまで伝わってくる。そんなふうに、言葉の微妙なニュアンスが大事だったので、お話を聞けたのはすごく助かりました。

-金子勇役の東出昌大さんとの関係はいかがでしたか。

 撮影前、当時の裁判を再現した模擬裁判をやる機会があったので、その後に何度か一緒に食事に行きました。おかげで、現場に入ったときは、何かを取り繕う必要もないぐらい、仲良くなっていて。東出くんは自然に懐に入ってきて、なんでも言い合える関係だったので、非常にやりやすかったです。

-現場での東出さんの印象は?

 皆さんよくおっしゃっていますが、役に対する集中力が人並み外れていますよね。すごく自然で、東出くん本人と金子さんとの役の段差が分からないぐらい、滑らかに役に入っていくんです。撮影前に話をしているときは、もちろん東出くん本人なんですけど、現場にいるときは、撮影以外の休憩時間も姿勢や表情、話しかけたときのリアクションが完全に金子さん。外枠は出来上がっているから、「撮影します」と言ったとき、内面だけすっと変えればいい、といった感じで。「すごいな…」と感動したほどです。

-本作は法廷シーンをリアルに再現していますが、三浦さんについて先生が「弁護士の目線を一発で覚えていた」と感心していたとか。

 今回は壇先生が普段、裁判シーンのある作品で不自然に感じていた部分を徹底的に削りましたが、目線にもかなりこだわっていた様子でした。例えば、裁判官が話をしているとき、検事が何をメモしているのか、どういう動きをしているから、今これを言おう、みたいな感じでずっと見ているらしいんです。金子さんがしゃべっているときは、それに対して裁判官がどういう心証を持っているのか、表情を確認したり…。そんなふうに細かく教えてくださったので、そこはきちんとやろうと。

-最終的に映画はほろ苦い結末を迎えます。映画の宣伝文句に「不当逮捕から無罪を勝ち取った7年の道のり。」とあるように、ハッピーエンドを予想していたので意外でした。

 「裁判に勝ってよかった」という気持ちはもちろんあります。ただそれ以前に、壇先生には「そもそも逮捕すべきではなかった」という、金子さんほどの技術者が7年も拘束されてしまったことへの憤りがあったと思うんです。7年あったら、どれだけ技術が進んでいたのかと。だから、「勝ってよかった」という終わり方にしなかったことは、僕自身もすごく納得できました。

-この映画を通じて“Winny事件”の見方が変わった部分はありますか。

 劇中にも出てきますが、インターネット上で金子さんの逮捕を疑問視する意見があったことは僕も知っていました。ただそれは、あくまでも一部で、世間の大勢を占めるのは、やっぱりテレビなどマスコミの報道だったんです。一度“容疑者”と報道されてしまうと、どうしてもそういう目で見てしまうので、僕も「報道の方が正しいのかな」と何となく思っていましたから。でも実際は、金子さんが1人の人間、1人の素晴らしい技術者だったことを知ることができ、そういうイメージはガラッと変わりました。

-金子勇という人が、単なる事件の容疑者から1人の人間として浮かび上がってきたと?

 そうですね。僕もIT技術にはすごく興味があるので、本当ならもっと新しい技術を開発していたであろう人が、この裁判で何年も拘束され、早くに亡くなってしまったことをとても残念に思いました。でも同時に、金子さんが時代を先取りした技術者だったと知ることができたのは、本当にうれしかったです。

(取材・文・写真/井上健一)