うかつな行動が招くリスク・問題点
ただし調査能力がプロに匹敵するとしても、問題点は残る。前出の有沢氏は2つの点を指摘する。
「1つ目は、責任の所在が曖昧なところです。たとえば離婚案件ですと、浮気調査は探偵、調停や訴訟になれば弁護士といった具合に責任の所在がはっきりしています。ですがネット上で暴露される個人情報は匿名ソースなので、いくらでも不完全な、または捏造した情報を拡散できます。『もし間違った情報が広まってしまったら誰が責任を取るのか?』という問題は常にあるでしょうね」
たしかにツイッターは別名「デマッター」と揶揄されるように、不正確な情報が広まってしまい問題になったケースは数え切れない。今回の記事テーマに合う事例だと、ある有名タレントが大津いじめ事件について書かれたネット上の誤情報を信じてしまい、いじめに関わった生徒と家族の情報をブログに載せ激しく糾弾した。ところがその一部にまったく無関係な人の情報があったことが判明。タレントは謝罪することとなった。
ヘビーなネット民は「2ちゃんねるやSNSで広がる情報の大半は嘘だから疑ってかかれ」という常識を知っているが、世の中そんなリテラシーがある人ばかりではない。“祭り”の熱狂のなかでろくに検証もされず間違った情報が書き込まれ、それがSNSを通じて事実のように拡散してしまうのだ。
「問題の2つ目は、潜入行動(スネーク)する人の安全確保ですね。プロの探偵はきちんと教育を受け、数をこなした経験がありますから、どこまで潜入していいのか、どこで引き返すべきかの線引きがきちんとできます。でも一般人はそうとは限りません。
たとえば風俗街まで相手を調べに行ったとき、うっかり暴力団のテリトリーを侵してしまい『あんたそこでカメラ持ってなにしとんのや?』と問い詰められる危険は常にあるんです。それに物騒なご時世ですから、住宅街での張り込みもいまや容易ではありません。付近住人から通報されるリスクは昔よりずっと高くなりました」
なるほど、攻め(撮影)にばかり気を取られ、自身の守り(通報リスク)がおそろかになることは素人だと多そうだ。ましてや犯罪者の個人情報を晒すスレッドで周囲から「スネークご苦労様。次も期待してます!」といった激励を受ければ、危険を顧みず突き進んでいってしまうかもしれない。
マスコミや法律は加害者ばかり守り、被害者の人権が置き去りにされがちな現代の日本。記者だってその理不尽にたびたび憤っている市民の一人だ。しかし自分たちに“大義”があるからといって、個人情報を晒すために何をやっても良いというわけではない。怒りや功名心に駆られて道を誤ることなく、冷静な判断力も常に持ちあわせていたいものだ。