日本と台湾の合作映画『おもてなし』で、台湾人俳優ワン・ポーチエとダブル主演を務め、劇中で巧みな中国語を披露している田中麗奈。以前にも日台合作映画に主演した経験がある。そんな田中が、再び訪れたチャンスへの胸踊る思いや、今後の展望、合作映画ならではの撮影エピソードなどを語ってくれた。
本作は、琵琶湖畔にある経営不振に陥った老舗旅館の一人娘・梨花(田中)や、再建のために送り込まれた台湾人実業家ジャッキー(ワン)など、過去にわだかまりを持つ人たちが、それぞれの人生と向き合い、日本のおもてなし文化に触れながら、旅館再生のために奔走する姿を描いたヒューマンドラマだ。
田中は、日本語、中国語、英語が飛び交う本作で、流ちょうな中国語を話す。そもそも中国語を習うきっかけは、20代前半の頃に仕事でアジア映画に携わる機会が多く、そのときに刺激を受けて中国や台湾の映画を見たり、出演したりしたいと思ったことだという。好機にも恵まれ、中国で放送された日中合作の恋愛ドラマ「美顔」(05)の主演が決定すると、本格的な習得に取り組んだ。
その後、念願がかない、時空を超えた男女の恋と冒険をアクション満載で描いた日台合作映画『幻遊伝』(06)に台湾の人気俳優チェン・ボーリンとダブル主演。「アジア進出」とも言われたが、結果的に出演した作品はこの2本だけとなる。
それから約10年の歳月が流れたが、16年についに再び出会いが訪れる。海外にある自分にとっての第二の故郷を紹介するバラエティー番組「アナザースカイ」(日本テレビ系)で、アジア作品への熱意を語る姿が本作の製作陣の目にとまり、オファーを受けるに至った。
田中は「北川淳一プロデューサーやジェイ・チェン監督、脚本の砂田麻美さんが、自然にこの作品を私のもとに届けてくれた感じがして…。すごくうれしかった」と喜びをかみしめた。
加えて、本作や、田中が各映画祭で助演女優賞を獲得した映画『幼な子われらに生まれ』(17)が台湾で公開されることから、アジア進出に対しては「今後は台湾や中国と自然につながっているような活動ができれば…」とアグレッシブだった20代とは違う穏やかな願いを口にした。
本作について「台湾生まれでアメリカ育ちの監督が、日本の“おもてなし”を題材にして作品を撮ることは斬新だし、外国人にとっては大げさにも見えるおもてなしに対する皮肉も交えて、日本を客観的に描いているところが面白い」と話す。
また、台湾人スタッフから「日本人スタッフは、段取りやスケジューリングが完璧で、何手も先を読んでいることが素晴らしい」と言われたと話す一方、「台湾の方は柔軟性や発想を大切にしていて、とにかくイチかバチかやってみる」と台湾人の気質を挙げて、「合作映画ならではの撮影現場でした」と語った。
さらに、ジェイ監督の厳しさが伝わるエピソードも披露した。メインキャラクターが集って旅館で執り行う結婚式のことを話し合う、台本約15ページ分の長回しのシーンは、夜9時から深夜まで、全員がもうろうとしながら挑んだ。しかし、数日後に「みんなの疲れが出ているから」と撮り直しを宣告されたそうで、田中は「鬼だと思った。そこから気持ちを立て直すのに1週間ぐらいかかりました。さすがにへこみました」と苦笑いした。
梨花役に関して、「今回の彼女に関しては役作りはしていません」と言いつつも、「医者の白衣、キャリアウーマンのスーツやハイヒールみたいに、一目でその人が何者かが分かる衣装や小道具があればいいけど、梨花にはそのような武器がないので、いつお父さんが亡くなったのか、いつ会社を辞めて旅館に戻ったのか、恋人とは何年前に付き合っていたのか、そういうせりふにはない部分を監督と話し合って明確にすることで、彼女がしっかり存在していることを意識しました」と話す。
そして、「派手な映画ではないけど、『人生は案外短いって誰も教えてくれなかったな』『心残りのない人生などつまらないものだよ』『(おもてなしは)正しいか間違えているかではないんですよ』などの格言のようなせりふにハッとさせられたし、身近にいる人を大事にしようと思えたので、そういう気持ちが伝わるといいな」と言葉に心を込めた。
おととし結婚し、「根を張る場所ができて、以前より自由に大胆になったと思う。気持ち良く、いろんな場所に飛んでいきたい」と胸を躍らせる田中。その針路はやはり台湾か…。「今回は日本で撮影したので、次は私が台湾に行って撮影するのも楽しいだろうな」と本作の逆バージョンに夢をはせる田中の瞳は、この日一番輝いていた。
(取材・文・写真/錦怜那)