NHKで放送中の連続テレビ小説「らんまん」。明治から昭和にかけて活躍した“日本の植物分類学の父”牧野富太郎博士をモデルに、愛する植物のため、激動の時代をいちずに突き進む主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の波瀾(はらん)万丈な生涯を描く物語だ。第5週の放送を終え、高知の造り酒屋の跡取りだった万太郎は、植物学を学ぶために上京。第6週からいよいよ“東京編”が幕を開ける。その放送を前に、松川博敬制作統括が、東京編の見どころを語ってくれた。
-ついに万太郎が東京へ旅立ちました。これからの東京編の見どころを教えてください。
高知編も豪華キャストでしたが、東京編も本格登場するヒロインの浜辺美波さんをはじめ、豪華なキャストがそろい、万太郎が新たなステージに入っていきます。今までは高知の酒蔵の御曹司として何不自由なく暮らしていた万太郎が、市井の人たちと出会い世間の荒波にもまれて、さまざまな経験をしていきます。植物学の夢に向かってまい進する万太郎の青春物語、それと並行して進む寿恵子さんとの恋愛。この二つが大きな見どころです。
-万太郎と寿恵子の恋の行方が気になるところです。
実は万太郎に恋のライバルが現れます。それが、元薩摩藩の実業家・高藤雅修(伊礼彼方)です。金も権力もある高藤が寿恵子を見初め、自分の妻にしようとする。もちろん、万太郎も寿恵子が好きなんですけど、「一人前の男にならない限り、彼女を迎えに行けない」ということで、植物学者として一人前になるために一生懸命頑張る。そういう構図がしばらく続きます。
-万太郎と寿恵子のほかに注目の人物は?
植物学を目指す万太郎の前に、要潤さん演じる田邊教授が大きな壁として立ちはだかります。この2人のライバル対決も見どころです。さらに、万太郎が下宿する長屋の住人にも個性豊かな人たちがそろい、活躍してくれます。彼らの団体戦のようなチームワークも魅力的です。
-高知編では万太郎や姉の綾(佐久間由衣)、お目付け役の竹雄(志尊淳)たちが、さまざまなしがらみの中で自分らしい生き方を見つけ出していくドラマが魅力的でした。「自分らしい生き方を貫く」というメッセージは、東京編でも受け継がれるのでしょうか。
高知編について脚本家の長田(育恵)さんと話していたのは、「万太郎が天才になるまでの過程をきちんと描きましょう」ということでした。万太郎のモデルになった牧野富太郎さん自身は、特に悩むことなく一直線に植物学に進んでいったことと思います。でも、この作品では等身大のキャラクターが人並みに悩みながら、自分の道をつかんでいくまでをきちんと描こうと。それが高知編の5週でした。
-なるほど。
東京編では、そこから解放された万太郎が一直線に突っ走っていくことになります。2週目で子役の小林優仁くんが、学問に目覚めてまい進していく子ども時代の万太郎を演じていましたが、東京編では神木さんがさらに疾走感たっぷりにその本領を発揮してくれます。その過程で万太郎自身が太陽のような存在になり、周りの人たちを照らし、彼らが変わっていく。そういう構図になっていくと思います。
-竹雄も万太郎と一緒に上京しましたが、2人の関係はどうなるのでしょうか。
今後、2人の関係は主従から友情に変わっていきます。高知編で竹雄は、当主としての万太郎に対する「みんなのために夢を諦めてもらわなければ」という願いと、友人として「万太郎の夢を支援したい」という個人的な思いのジレンマに苦しんでいました。そのジレンマが解消されたことで、東京編では相棒として万太郎を支えていくことになります。ただし、「自分がいないと生きていけない」と思っていた万太郎がどんどんたくましくなり、世界を広げていくので、あるとき、ふと「自分がいなくてもいいのでは?」と寂しさも感じてしまったり…。だから、竹雄もまだまだ悩み多き感じですね。
-東京編も見どころたっぷりですね。話は変わりますが、現場での神木さんの印象はいかがですか。
裏表がなく、皆さんがイメージされる「神木隆之介」のまんまです。「らんまん」はロケが多く、撮影スケジュールもハードなんですけど、神木さんは常に笑顔でいてくれるんです。その姿を見ると、スタッフも他のキャストも頑張れる。現場でもすごく楽しそうに場を盛り上げてくれるので、「この人の近くにいたら面白いことがありそう」と思わせてくれるんですよね。だから、キャストもスタッフも彼を取り囲んでいることが多くて。そういう現場の雰囲気が、映像にも表れているんじゃないかと思います。そういう人を巻き込む魅力は、牧野富太郎さんに通じるものがあるような気がします。
-続いて、寿恵子役の浜辺さんの魅力について教えてください。
浜辺さんは、年齢は若いのに、すごく大人ですよね。とても懐が深く、底知れない魅力があります。キャスティングの際、寿恵子は万太郎より年下なので、その年頃の俳優で神木さんのお芝居を受けて立てる方と考えたとき、浜辺さんしか思いつきませんでした。寿恵子さんは『里見八犬伝』が愛読書で、その世界に没頭したいオタクです。彼女のそういう気質が植物オタクの万太郎と共鳴して恋愛に発展していきますが、その辺の“癖の強さ”みたいなのも見事に表現してくれています。だから、神木さんはもちろん、浜辺さんのお芝居からも目が離せません。
(取材・文/井上健一)