山本耕史 (C)エンタメOVO

 山本耕史が、ゆりやんレトリィバァとブロードウェイで活躍するキャストとともに挑む、日米合作ブロードウェイミュージカル「フル・モンティ」が、8月19日から上演される。本作は、1997年に映画をもとに誕生し、トニー賞作品賞を含む9部門にノミネートされた傑作コメディー・ミュージカル。今回の公演では、日米合同制作として、全編英語上演で男たちの友情と再生の物語を描く。2024年に上演された日米合作「RENT」に続き、英語での芝居に挑む山本に、本作への意気込みを聞いた。


-「RENT」に続いて、日米合同キャストでの作品です。お話を聞いて、どのように感じましたか。


 まさかこのような形でつながるとは思ってもいませんでした。そもそも、山本耕史という俳優の大半を作った「RENT」という作品に最初に出演したのが21歳のときです。1998年に再演をして、その後も紆余曲折があり、2024年に再び英語で上演することができました。そこで、僕の中では舞台人生に区切りをつけたつもりでした。そうしたら、「RENT」の演出家のトレイ・エレットが「次は何やる?」って(笑)。そう言われても、日本でよくあるような社交辞令だと思ったんですよ。そう言って盛り上げてくれたんだな、うれしいなと思っていたんです。ただ、「耕史にピッタリの作品がある」と言われて、スケジュールを確認することになって。気が付けば、あれよあれよという間にやることになっていました(笑)。なので、僕の中では、「RENT」が終わった直後からずっと続いているという感じです。


 僕としては、やっぱり母国語ではない言葉で舞台に立つというのは想像を絶する大変さがあったので、「またやろうよ」と言ってくれたことがうれしかったんですよ。またできると思っているから声をかけてくれたのだと思うので、すごくチャレンジングですが、やってみようと。正直なところ、なかなか飛びつけない作品じゃないですか。「RENT」はどういう作品だというのも知っているし、歌も知っているし、せりふも全て理解しているからやりやすかったですが、今回はゼロからのスタートなので、とにかくやるしかないなという気持ちです。


-今、お話にも出てきましたが、「RENT」という作品は、山本さんにとってどのような存在なのでしょうか。


 「RENT」に出演する前から、ミュージカルにも舞台にも出演していましたが、生まれたときからこの仕事に携わってきたので、仕事だけど楽しくて、半分遊びのような感覚があったんです。そうした中で、「RENT」は全く違う世界観でした。初演時の「RENT」は、僕以外は出演者は全員ミュージシャンだったんですよ。だからこそ、俳優さんたちが集まっている舞台とは全く違う世界で。いい意味で戦い合っている感覚がありました。いい悪いは置いておいて、俳優さんたちが集まると、きちんと足並みをそろえて、あまり突き出さないように稽古を進めていくんですが、「RENT」には優等生が誰もいない。そうした経験が僕の中に深く刻み込まれました。


 そもそも「RENT」は、2000年を迎える前の話で、エイズや同性愛がある中で、ジョナサン・ラーソンという人は「今のブロードウェイのミュージカルは遅れている」という考えを胸に秘めて作った作品です。当時の主流ではなく、亜流で作り上げた作品なんですよね。そうした作品だからこそ、日本で上演した時も、やっぱり異質でした。時代に逆行するエネルギーがそこにはあって。だから、そうした「RENT」を経験すると、ほかの作品はどこか物足りなさがあったんです。


 その後も、いろいろな作品に出演しましたが、舞台では紆余曲折しながらも、最終的に「RENT」に戻って、「RENT」以外はやらなくていいと思ったし、だからこそここでもういいやと思った。それは、今もその気持ちがあります。今回はある意味ボーナスみたいなものです(笑)。これまでいろいろなことをやってきたのは「RENT」にたどり着くためだったんだなと今も思います。権利の関係などもあり、もうできないと思ったこともありましたが、英語上演ならできるとなって、ハードルは高くてもチャンスがあるならリベンジしたいと。もう1度ここに立ち戻らないと、取り戻せないものがあると感じたのが「RENT」だったんです。正直なところ、僕の中ではたとえ酷評だったとしても、それでいいと思っていたんですよ。その後も、舞台のお話をいただくこともありましたが、それ以上に求めるものがなかった。ただ、今回は、違う切り口で今回のお話が進んでいき、今に至ったという感じです。


-トレイ・エレットさんは、なぜ本作は山本さんにピッタリだと思われたのでしょうか。


 この体でしょうね(笑)。「RENT」ではロジャーを演じたスティーヴン(・ロシェット・ロペス)もガタイがいいので、二人が並ぶとマーベルのスーパーヒーローみたいな見た目になるんですよ(笑)。それもあったのかもしれないです。


-山本さんが演じるジェリーには共感できるところもありますか。


 ジェリーには息子がいて、その息子のために奔走するというところは、何の迷いもなく演じられますし、この役にぴったりだと思います。もしかしたら、トレイは、僕が家族を劇場に連れて行っていたのを見てぴったりだと思っていたのかもしれませんね。それから、ジェリーは、実はあまり特化した個性はないんですよ。他の登場人物は、ぽっちゃりな人だったり、紳士だけどちょっとダサかったりと、特色があるけれど、ジェリーはそうした個性があまりなくて。実を言うと、マッチョでもないんです。むしろ「痩せすぎている」と言われるくらいです。これは深読みかもしれませんが、「RENT」でネーティブの中で一人だけ入っていた僕の異質さをトレイが感じて、ジェリーに合うのではないかと考えたのかもしれないですね。


-今回、体作りはどのように考えていますか。


 デイヴを引き立てるためにも、ある程度、細い方が良いのかなと思っています。ただ、周りの海外の俳優さんは、みんな体も背も大きいので、僕はそれほど大きいとは思われないと思うんですよ。日本のきゃしゃな男の子たちと比べると、大きく見えてしまうかもしれませんが。なので、だらしない体では出てはいけないと思いますが、ボディビルダーのような体も違うと思うんです。なので、今は体を小さくしています。


-その中でも、特に作り込みたい場所はありますか。


 今は、筋肉の量が大きいから、筋肉を残しつつ、シェイプするイメージです。理想は、少し細く見えるくらいがいいかなと思います。ただ、周りのキャストたちの身長や体重が分からないので、それは稽古に入ってから、大きくするか、もうちょっと絞るか考えようと思っています。


-前回の「RENT」もそうですが、トレイ・エレットさんの演出の印象や、日本人だけのカンパニーとの違いは?


 一番の違いは、言葉です。それから、やり方もやっぱり違います。日本のカンパニーにも、海外のカンパニーにもいろいろとあると思うので、一概には言えませんが、日本のカンパニーだとどうしても、稽古場での関係性などを気にして、気を遣ってしまうことが多いんですよ。なので、それが全くない気持ち良さはありました。ただ、それまで積み重ねてきた舞台の経験がゼロになるくらい、何もかもが違ったので、そういった意味では、日本での山本耕史らしさはなかったと思いますし、でもそれが、すごく新鮮でもありました。人間は、年を取れば取るほど、先生にはなっても生徒にはなかなかなれなくなっていきますよね。でも、「RENT」のときは、全員が先生でした。やっぱりブロードウェイはすごいなと思うこともありましたし、僕も経験は積んでいるので、自信を持っていいんだなと思うところもありました。初心に返る機会にもなったと思います。


-本作を通して、お客さまにどんなことを届けたいですか。


 この作品は、ハッピーエンドです。そうした作品は、対比として劇中で暗い事件が起こったりしがちですが、本作にはマルコムのお母さんのお葬式のシーンはあっても、誰かが事故で死んでしまったり、病んでしまうということはない。人の生死が関わるような大事件も起きないのに、突き抜けている。それはすごく珍しいし、難しい。でも、だからこそ、とてもいい作品なんだと思います。人を暗い気持ちにさせて笑わせるのではなく、暗い歌をラブリーにして笑わせる。人が何かに立ち向かっていく姿を描いていて、そうしたジェリーの姿が人の心を掴むので、男女関係なく、楽しんでいただける作品になるのではないかと思います。


(取材・文・写真/嶋田真己)


 日米合作ブロードウェイミュージカル「フル・モンティ」は、8月19日(水)~9月7日(月)に都内・東京国際フォーラム ホールC、9月10日(木)~14日(月)に大阪・新歌舞伎座で上演。