撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

新国立劇場の《サロメ》(R.シュトラウス)が5月27日(土)に幕を開ける。舞台リハーサルを取材した。
劇場の開場2シーズン目の2000年に新制作上演された故アウグスト・エファーディング演出の舞台は、再演を繰り返している人気レパートリーで、これが7度目の上演。劇場を代表するプロダクションのひとつだ。
ヘロデの宮殿はタマネギ・ドームの巨大テント。ヨハナーンが幽閉されている井戸も巨大で、ロープで引き上げて開閉する蓋がついている。舞台装置はほぼこの2つだがインパクト大。
圧倒的な主役であるサロメ役は、新国立劇場初登場のブルガリアのソプラノ、アレックス・ペンダ。ドラマティックで強靭な声を持つ16歳の王女というキャラクターが要求される難役だ。強いけれどもしなやかさも併せ持ったペンダの声は、小柄な体躯とあいまって、16歳とはいかないまでも、サロメの若さを感じることができた。しかしそれ以上に共感できたのは、リアルタイムで進む1幕100分のドラマの中で、少女が狂気の魔女に刻々と変貌していく様子を、説得力のある表現で演じていたこと。官能的な「7つのヴェールの踊り」のあと、ヨハナーンの首を所望する無表情な歌と演技にはぞっとした。
一方の主役とも言えるヨハナーン役はこちらも新国立劇場初登場のトマス・トマソン。話題を呼んだ昨秋の東京交響楽団の演奏会形式の《サロメ》でも同役を好演していたが、やはり舞台上演の面白さは格別。井戸から声だけが聴こえていた彼が姿を現して歌う時の威厳や精悍さには、サロメならずとも魅了されるはず。
アメリカのスター歌手ジェニファー・ラーモアがサロメの母ヘロディアスを歌っているのにも注目だ。いかにも憎々しい悪女ぶりを見せつける。
なお、このプロダクションではヨハナーンの生首の造形がとてもリアルで怖いのだが、今回は客席からはあまり見えないような演技プランに変わっていたのでちょっと安心。
演奏はシュトラウスなどドイツ・オペラを得意とするコンスタンティン・トリンクス指揮の東京フィルハーモニー。4管超の巨大オーケストラを3管編成に縮小した版での上演。音楽が濃厚なので、一度聴くとなかなか抜けない。帰り道、作品に登場するいくつもの動機が、頭の中にヘビロテで渦巻き続けた。
新国立劇場の《サロメ》は6月4日(日)まで全4公演。新国立劇場オペラパレスで。
文:宮本 明

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■新国立劇場オペラ「サロメ」
※東京公演後、札幌にて上演

2023年5月27日(土) ~ 6月4日(日)
新国立劇場 オペラパレス (東京)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

2023年6月11日(日)・13日(火)
札幌文化芸術劇場hitaru (北海道)
管弦楽:札幌交響楽団