イタリアを代表する指揮者の一人ミケーレ・マリオッティが来日し、東京交響楽団でタクトを取る。オペラの国イタリアでごく若い頃から頭角を表し、昨年からローマ歌劇場の音楽監督を務めるマリオッティは、現在ミラノ・スカラ座に君臨するリッカルド・シャイーがイタリア音楽界のトップだとすれば、その次のポジションにあるマエストロだ。ローマ歌劇場の今シーズン開幕に指揮したプーランク《カルメル会修道女の対話》も非常に高い評価を得た。

マリオッティの演奏へのアプローチには二つの大きな特徴がある。一つは楽譜の読み込みだ。楽譜を原典として掘り下げる姿勢により、曲の真価が再現されて立ち昇ってくる。そして、そこに独特のインスピレーションを注ぐことによって音楽が命を宿す。そのマリオッティが世界的に広く知られているのがロッシーニ オペラ・セリアの演奏だ。メトロポリタン歌劇場の《湖上の美人》、ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルで大評判となり、来シーズンにはスカラ座でも指揮をする《ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)》などはその代表だろう。

国外ではオペラが多いマリオッティだが、イタリアではシンフォニーも数多く手がけている。長年音楽監督を務めてきたボローニャ歌劇場、ローマ歌劇場のコンサート・シーズンに加え、RAI国立交響楽団やサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団などで幅広いレパートリーを指揮してきた。

中でもマリオッティが大切にしているのがシューベルトの音楽だ。シューベルトはロッシーニのほぼ同世代の作曲家であり、シューベルトが生涯を過ごしたウィーンはロッシーニが席巻していた時代にあった。それに加え、古典派からロマン主義への発展に大きく寄与したシューベルトの先進的な音楽性と、内気で詩的なところがある世界観は、マリオッティの個性と親和性があるように感じられる。そういう意味でマリオッティは、クラウディオ・アバドにも共通する点があるかもしれない。

アバドと共通するといえば、共演者からの信頼がある。マリオッティの、オペラ歌手やソリストへの全力での献身は、彼らから最良のものを引き出して魔法の時間を生み出す力がある。今回の演目では萩原麻未とのモーツァルト ピアノ協奏曲に注目したい。そしてマリオッティのシューベルト「ザ・グレイト」の解釈は、高い実力のある東京交響楽団との演奏で聴衆に新鮮な喜びをもたらすに違いない。

井内美香(音楽ジャーナリスト)

《第711回 定期演奏会》
6/24(土) 18:00開演 サントリーホール 大ホール(東京)

《川崎定期演奏会 第91回》
6/25(日) 14:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川)