神木隆之介(スタイリスト:TAKAFUMI KAWASAKI/ヘアメーク:MIZUHO(VITAMINS))

 ある日突然、徳川家康の子孫だと告げられて越後丹生山(にぶやま)藩の若殿(プリンス)となった松平小四郎。庶民から殿さまへの大出世かと思いきや、実は丹生山藩は25万両(現在の価値で100億円)もの借金を抱えていた。しかも、借金が返済できなければ、殿は責任を取って切腹に。さあどうする、小四郎…。浅田次郎の時代小説を前田哲監督が映画化した『大名倒産』が6月23日から全国公開される。本作で主人公の小四郎を演じた神木隆之介に話を聞いた。

-今回、小四郎という役を演じる上で、何か意識したことはありますか。

 今回は原作とは大きく違うところもあったので、別の作品だと思って演じさせていただきました。脚本を読ませていただくと、話もとてもシンプルでしたし、借金を返す、そのためにはどうしたらいいのかというのが大きなテーマだったので、ただただ、どうやって借金を返済したらいいんだろうという、困った感じでやりました。また、キャラクター自体も、そんなに複雑ではなかったし、コメディーなので、表現の仕方も、分かりやすくリアクションを取ったりしたので、役作りとか、バックボーンみたいなことはあまり気にせずにできました。

-小四郎と自分が似ていると思ったところはありましたか。

 小四郎の方がずっと上ですが、平和主義者という点では、ある程度似ているとは思います。小四郎の優しさや器の大きさ、人に寄り添えるような人間性というのを尊敬していたので、気持ちよく演じられました。憧れのような、こんな優しい人になれたらいいなということはすごく思いました。自分には、まだまだ足りない部分が多いなと感じました。

-神木さんは自分の性格を「基本的におめでたいやつ」と表現していますが、この映画にはそれがとても出ていた感じがしました。

 確かに、小四郎には優しいだけではなくて、「すぐにだまされそうだな」と思わせるところがあって、くすっと笑えます。それも笑わそうとしているのではなく、「ばかだな」とか「お人好しだな」「大丈夫かな」と不安がらせて笑わせるところがいいと思いました。その中で、最終的に「ばかなやつだけど、精いっぱい頑張っている」というところを、皆さんに伝えられたらいいと思いました。だから、おめでたいやつという印象を持ってくださったのは、すごくうれしいです。

-時代劇初主演についてはいかがでしたか。

 やっぱり、所作が難しかったです。リアクションやせりふ回しは現代風でしたが、所作だけは当時のものだったので。しかも、“殿っぽくない殿”というのをテーマとしてやっていたので、頭の下げ方や角度などは、小四郎っぽいものにしました。自分が藩主なのに、相手が目上だと本能的に感じてしまって、すごく頭を下げてしまうところは、小四郎の生い立ちが抜けていないというのを表現したくて、それは、所作の先生にもお伝えして、やらせてもらいました。でも、座り方や手のつき方、歩き方、はかまのさばき方などは、時代劇だなというのをすごく実感したので、そこはやっぱり難しかったです。コメディーなので、ばっとリアクションをしたいけど、でも、相手が目上の人だから、ちゃんと所作をやってから、相手の前に行ってみないといけないような間があったりもしたので、その間をどう埋めようかなとか、動きが崩れないようにやるところは、結構苦労しました。

-本格的に時代劇を体験してみて、例えば大河ドラマに出てみたいとか、もっと時代劇をやってみたいというような意識が湧いてきましたか。

 湧いてきませんでした(笑)。とても難しいと思いました。特に、順序があったりするので所作が難しいと思いました。でも、ありがたいことに、次(NHK朝の連続テレビ小説「らんまん」)は、時代は違いますが、酒屋の当主の役だったので、その経験が生かせたと思いました。

-前田哲監督は「この映画ではリーダー論をやりたかった」と言っていましたが、そういう監督の意図を聞いて、どう思いますか。

 リーダーということについては、やる前に少しだけ監督と話した記憶があります。そのときに、「小四郎は、もともとはリーダーではなかった人間なので、人に寄り添うことができるリーダーであったらいいと思います」とお伝えしました。リーダーというと、恐怖で支配する人もいるし、みんなを動かすような人がリーダーだというイメージもあります。でも、小四郎を見ていると、家臣たちときちんと向き合おうとする誠意が相手にちゃんと伝わって、彼が頑張る姿をみんなが見て心を動かされて、この人のために頑張りたいと思えるのがいいリーダー、すてきなリーダーの姿であるのかなということは思いました。

-家臣たちが、だんだんと小四郎に感化されていきます。そこが、みんなで主役の神木さんを盛り立てようとしているところと重なって見えたのですが、共演の皆さんに支えられた感じはありましたか。

 もちろん皆さまに支えていただきました。今まで共演させていただいた方々も多かったです。浅野(忠信)さんとはバディをやったし、松ケンさん(松山ケンイチ)は幼なじみみたいな感じでしたし、通(桜田通)は同じ事務所でしたし、花ちゃん(杉咲花)とはずっと一緒でしたし、コヒさん(小日向文世)とは、つい最近まで舞台を一緒にやらせてもらったり…。だから、皆さんが僕のことを、こういう人間だというのをある程度分かってくださっていて、僕も「この方はこういう方だな」というのをある程度分かっていたので、関係を再構築することもなく、皆さんスムーズに現場に入られていたので、僕も楽しくいさせてもらいました。

-父親役の佐藤浩市さんの印象は?

 佐藤浩市さんとは初めて共演させていただいたんですけど、すてきなお父さまだなと思いました。あるとき、浩市さんが動きを間違えてしまって、もう一度本番をやることになったんです。そのときに、とても大きな声で「すまんな神木、申し訳ない。もう1回付き合ってくれないか」とおっしゃったんです。あの佐藤浩市がですよ! かっこいいというか、めちゃくちゃ尊敬して、その時点で、僕はこの人に付いていくと思ったんです。そんなかっこいい大人、なかなかいないですよね。年とか立場とかは全く関係なく、申し訳ないと思ったら浩市さんは口にする方なんです。かっこいいですよね。すごく尊敬しています。

-今、朝ドラの「らんまん」で演じている万太郎も、今回の小四郎も、何か周囲が放っておけないと感じる、ある意味、人たらし的なところがあると思いますが、そういう役が回ってくるのは、自分の中にもそうした部分があるからなのかと思ったりもしますか。

 どちらかといえば、万太郎は振り回す方だとは思うんですけど。今までは周りがくせ者だらけで、それに振り回されるような役が多かったです。だから、僕が振り回されて大変そうになっている姿が面白いから見てみたいと思われているのかなと。いつも振り回されちゃうんですよね。振り回されるのが似合っているのかなって。この映画でも全員に振り回されていますから(笑)。

-最後に、観客に向けて、この映画の見どころなどをお願いします。

 この映画を見て、元気を出してもらえたらいいなってすごく思います。頑張っている方々のために、少しでもお力になれるように、応援できたら。そして「明日からもちょっと頑張ってみようかな」、そんなことを思っていただけたら、僕らはそれで十分です。おめでたいやつを見て、「こいつばかだな」と思いながら、気楽に楽しんでいただけたらと思います。

(取材・文/田中雄二)