じつは面白いホームコメディの王道

このように、入れ替わりドラマというのは、極端な設定であるにもかかわらず、意外と頻繁に制作されている。だからどうしても“またか”という印象が強くなってしまう。『夫のカノジョ』がスタートダッシュに失敗してしまったのも、それが大きな原因かもしれない。

また、『夫のカノジョ』というタイトルからは不倫モノを連想してしまうので、入れ替わりドラマが好きな人にとってもチョイスしにくかった。さらに、木村拓哉、堺雅人、米倉涼子などの高視聴率経験者に比べれば、やはり川口春奈と鈴木砂羽では引きが弱い。そのあたりの要因が重なって、現在の低視聴率があるような気がする。

ただ、入れ替わりドラマというのは、頻繁に作られていることからも分かるように、安定した面白さはある。というか、フィクションの設定としては、タイムスリップものなどと並んで鉄板と言ってもいい。

実際、『夫のカノジョ』も面白くて、Yahoo!テレビのみんなの感想では、最高の☆5つが66%、平均で4.16ポイントの評価をされている(11月17日現在)。つまり、見ている人は少ないが、見た人の多くは満足しているということだ。

このドラマは、夫の浮気を疑った主婦・菱子(鈴木砂羽)と、浮気を疑われた派遣社員・星見(川口春奈)が入れ替わる話だが、星見は菱子の夫・麦太郎(田辺誠一)が課長を務める食品会社で働いている。つまり、入れ替わってからは、菱子が夫の会社で夫といっしょに働き、星見が菱子の家で麦太郎や子供たちといっしょに生活をしながら主婦をすることになるわけだ。

前半は、菱子が夫の浮気を疑っている部分が効いていて、麦太郎が普通に星見(中身は菱子)に接しても、菱子がすべて浮気と関連づけて考えてしまうところがきちんとコメディになっていて面白かった。もちろん、麦太郎が本当に浮気をしているわけではなく、そのことは第4話で菱子も理解するのだが、菱子が夫を愛する目でみてしまうと、身体は星見なので、さらにややこしいことになってしまう。

妻が実際には浮気をしていなかった“夫のカノジョ”に身体が入れ替わってしまうという設定は、ボタンの掛け違いが次から次へと笑いにつながるので、思った以上に面白いのだ。

ドラマ全体としては、菱子がそれまで知らなかった家族のために働く夫の姿を見たり、自分とはまったく違う環境で育った星見の人生を垣間見たり、あるいは家族の団欒を知らない星見が菱子の家でさまざまなことを感じたりしながら、それぞれに成長していく部分もある。

また、菱子の生活を星見が、星見の生活を菱子が肩代わりすることで、本来の自分ではできなかったことができたりもするので、入れ替わりが改めて自分の生き方を見直す期間にもなっている。そういう部分も含めて、この入れ替わりドラマはホームコメディの王道になっているのだ。

星見を演じている川口春奈も無難にこなしていると思う。昨年、フジテレビ系で放送された『GTO』の相沢雅役が印象深いが、前クールにTBS系で放送された『天魔さんがゆく』の旭役でもいい味を出していた。はっちゃけたコメディエンヌというわけではないが、ツボは分かっている人だと思う。

ゴールデンタイムの連ドラ初主演だからといって、低視聴率をすべて彼女のせいにしてしまうのはいくらなんでも可哀想だ。

実際問題、視聴率3%台が続くと、予定通りに話がこなせるのかどうかはわからない。ただ、序盤から各話のエピソードは原作を離れているし、登場人物も最初から減らしているので、ドラマとしての無理のない着地点は見つけられそう。

最初から見ていない人に、あとでこんなに面白かったんだと思わせるためにも、最後まで前半のテイストを維持して完走して欲しい。


 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。