――「世界観」とよく言いますけど、そういう意味ではMALICE MIZERは世界観を本当に徹底してたんですね。

Hitomi:本当に凄かったです。MALICE MIZERは曲によっては楽器を手放すこともあって、それまでのヴィジュアル系って、ロックバンドっていうものをすごく強く意識したジャンルだったのに、そこでそれが崩れたんです。

――当時はそこについての批判も多少はありましたよね。

Hitomi:でもそれって現在のゴールデンボンバーに対する批判と多分同じで、結局「それを求めるかどうか」は聴いてくれる人たちが決めることだから。それを受け入れられる人たちがいるってことは、それは不正解ではないんじゃないかな。

俺もMALICE MIZERのローディーを始める前は「バンドマンが楽器を置くなんてロックスピリットに反しているんじゃないか?」と思っていたけど、実際、下に付かせて貰っていると、ものすごく色んな所にロックスピリットを感じたんです。

「ヴィジュアル系ってこうだな」「徹底して作られることがロックなんだな」と。自分たちが作り上げようとしている世界に対して、自分たちがやるべきことからブレないところがロックだなと。それがすごくいいなと思って。

――Hitomiさんの考える「ヴィジュアル系」というのは、ブレないということなんでしょうか?

Hitomi:それこそ「ヴィジュアル系」という名前のジャンルなんだから、音楽にも縛りが無いし、見た目にも縛りがないし、本当に好き勝手何をやってても良いジャンルなんじゃないかな。でも、なんでもできるジャンルだからこそ、自分たちなりのこだわりみたいなものは持っていて欲しいな。

だから、衣装の雰囲気が変わるとか、曲の雰囲気が変わるとか、そういうのがあったとしても何かブレないところがちゃんとあればいいんじゃないのかな。
昔は昔で黒が流行ってるから黒一辺倒みたいな時代があったし。

――たとえば00年代に入ってコテコテのヴィジュアル系から、「KERA」に載ってそうなカジュアルな衣装のいわゆる「オシャレ系」のバンドが増えたりと時代時代に波があったりしますよね。

Hitomi:その前に大阪を中心に発祥した「ソフビ=ソフトヴィジュアル」と呼ばれるジャンルがあって、大阪のその辺の流れって、多分JanneDaArc、Tinker BellやBlue、DearLovingあたりからきてると思うんで。wyseとかが出てくるもう少し前ですね。

東京にはない、歌モノですごく人気のあるバンドがいて。当時はコテコテのメイクをしたバンドと、若干ライトな感じのバンドがせめぎ合ってた時期で、そういうのって実は昔からずっとそうで、だいたいどっちかが流行ると、だんだんどっちかが廃れてきて…の繰り返しなんですね。

たとえば、La'cryma ChristiやSHAZNAがメジャーにいて、そこに続くインディーズも比較的ソフビっぽいバンドに勢いがあったシーンにDir en grey(DIR EN GREY)が登場して話題をかっさらっていった、みたいな感じで。その後コテコテバンドが流行るとそれを真似する劣化バンドみたいなのがいっぱい出てくるじゃないですか。

――それで流行りも陳腐化しちゃいますよね。

Hitomi:で、冷める。みたいな(笑)。そこに今度は「やっぱり歌モノがいいよね」みたいに、今度はそういうバンドが増えてくる。そしたら刺激に飢える人が出てきて、そしたらまたコテコテバンドが出てくる。そっちに流れる…の繰り返しで。

――Hitomiさんは現在をどっちの時代だと見てますか。

Hitomi:いわゆる「キラキラ系」と呼ばれる子たちがちょっと落ち着いて、また黒の時代が到来してるって言われてる。コテの時代が。でもそれも正直な話、しばらくしたら終わると思います。

で、俺の読みだと、そろそろ超個性派系が来ます。cali≠gariみたいな。そういう奇抜なバンドが来るんじゃないかな。