85作目にあたるNHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』が、ほぼ折り返し地点に差し掛かった。正直、始まる前はあまり興味が持てなかったのだが、見てみるとこれが面白い。ここまでの前半戦、まったくダレることなく、見応えのある内容は続いている。


このドラマは、コシノ三姉妹(コシノヒロコ、コシノジュンコ、コシノミチコ)を育てた日本のファッションデザイナーの草分け、小篠綾子さんの生涯を描いた物語。放送前、個人的に興味が持てなかったのは、自分がファッションに疎く、描かれる世界にあまり関心がなかったからだ。でも、この作品はそういうことは関係ない。朝ドラらしく、ヒロインの人生をしっかりと描いているし、脚本も丁寧。ファッションに興味がなくても引き込まれる内容になっている。
 

ちなみに、タイトルの『カーネーション』は、花言葉の「情熱」と「母の愛情」をヒロインの人生にたとえたもので、洋服作りに打ち込んだ情熱と3人の子供を育てた母親の姿を象徴している。ただ、NHKの朝ドラには、タイトルの最後に「ん」が付くとヒットするというジンクスがあって、これまでにも「おしん」「ちゅらさん」「ちりとてちん」「だんだん」「てっぱん」など、多くの作品があった。なので、「カーネーション」もそれを意識して付けた気がしないでもない。それでも毎週のサブタイトルは、第1週がひまわりの「あこがれ」、第2週がプリムラの「運命を開く」、第3週がカンナの「熱い思い」など、すべて花言葉と関連付けられている。もしかしたら最終週はカーネーションの花言葉で締めるのかもしれない。
 

      

 

 

 

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 さて、作品の中身だが、話は実際に小篠綾子さんのまわりで起きた出来事を元に進んでいる。ただ、一応フィクションのドラマなので、主人公の名前は小原糸子に変えられている。物語がスタートしたのは大正13年。大阪・岸和田の呉服屋の長女として生まれ、だんじりの大屋根に乗ることを夢見ていた糸子が、着物の時代にドレスと出会い、洋裁に興味を持つところから始まった。幼少時の糸子を演じたのは、D-unit cutieというダンスユニットに所属している二宮星(9歳)。演技は初めてだったらしいが、おてんばなキャラクターが見事にハマっていて魅力的だった。さすがに評判が良かったようで、糸子の次女役としての再登場がすでに決まっている。
 

第1週のラストから時代は昭和2年に移り、糸子役は尾野真千子になった。尾野真千子は、16歳の時に河瀨直美監督の映画『萌の朱雀』で主演デビューしたキャリアのある女優だが、映画を中心に仕事をしていたため、テレビドラマではしばらく目立った活躍はなかった。個人的に印象を強く残したのは、2009年にNHK広島が製作した『火の魚』という単発ドラマ。故・原田芳雄と共演した作品で、国内外の賞を数々受賞した名作だ。残念ながらDVD化はされていないが、NHKのオンデマンドでは見られるようなので、機会があったら見て欲しい。
 

あと、同じ2009年の11~12月にNHKで放送された『外事警察』(全6話)。これも見応えのあるドラマで、すでに映画化が決まっている。尾野真千子は所轄から警視庁公安部外事課に派遣された役で、班長役の渡部篤郎との衝突はものすごい緊張感でシビれた。『カーネーション』の糸子とはまったく違う役なので、未見の方はこれもぜひ見て欲しい。

      

 

 

 

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 で、ヒロインが尾野真千子になった『カーネーション』の第2週は、糸子の女学校時代の話だった。初めてミシンと出会い、これが女の自分でも乗れるだんじりだと確信した糸子は、女学校を中退して働きに出る。第3週以降、パッチ屋、紳士服店、生地店などで働き、その間、ミシンの販売員に洋裁の基礎を学んだり、百貨店の制服を自らデザイン・制作して売り込んだりした。そして第8週、ついに糸子は「小原洋裁店」を自宅に開業。紳士服店で同僚として働いていた男性(駿河太郎)と結婚する運びにもなった。
 

とにかく、このあたりは糸子の強烈なバイタリティーが見ていて気持よかった。どんな苦境に立たされても糸子は根性とアイディアで乗り切るので、見ているこっちまで元気が出てくるようだった。舞台背景も活気のある岸和田、大正から昭和にかけての古き良き日本という感じで、どんどん物語の世界に引きずり込まれた。ただ、あまりにも楽しかったので、このまま戦争に突入して大丈夫か、という気はしていた。
 

ところが、このドラマはそんな心配も無関係だった。第9週、糸子の幼馴染み・勘助(尾上寛之)に赤紙が来るあたりから戦争の色は濃くなっていったのだが、糸子のキャラクターや作品の雰囲気を壊すことなく、時代背景だけが移行していった。やっぱり脚本の完成度が高いんだろうな、このドラマは……。ちなみに脚本は、映画『ジョゼと虎と魚たち』や『天然コケッコー』などの渡辺あや。上記で紹介した『火の魚』も彼女の脚本によるものだ。
 

この前半戦、見所のひとつは、糸子と糸子の父親・善作(小林薫)との関係だった。善作は頑固で、横暴で、それでいて気が弱く、セコいところもある。そういうやたらと人間味のある父親と糸子ぶつかり合いは、見ていても本当に楽しかった。残念ながら善作は第11週で亡くなってしまったので、2人の掛け合いはもう見られない。でも、替わって登場するのが三姉妹だ。
 

糸子の子供たちは、第9週から第11週にかけて生まれていて、名前は優子、直子、聡子。そして、成長後の三姉妹を誰が演じるのかもすでに発表されている。長女の優子が新山千春、次女の直子が川崎亜沙美、三女の聡子が安田美沙子だ。川崎亜沙美というのは、岸和田生まれの女優でもあり、プロレスラーでもある人。三姉妹の中では最もおてんばでだんじり好きな役なので、後半戦は彼女の直子役にまず注目したい。
 

聡子役の安田美沙子は、マラソン経験などの運動能力も考慮されての起用なのかもしれない。モデルとなっているコシノミチコがソフトテニスで日本一になったこともあるので……。だとしたら無駄じゃなかったのかな、あのマラソンも。問題は、新山千春が尾野真千子と同じ1981年生まれであることだ。はたして親子に見えるのか……。でも、大丈夫そうな気がする。ここまでのこのドラマのクオリティーを考えると。
 

第1週の視聴率こそ17%台だったが、評判が評判を呼び、すでに20%を超える週も出ている(朝ドラの場合は再放送もBSでの放送もあるので、民放の視聴率とは比べられないが)。長丁場でありながら、ここまでダレることなく盛り上がっているので、後半もこの勢いは維持されそうだ。
 

最後に、巷ではこのドラマの主題歌・椎名林檎の「カーネーション」が、作品の雰囲気と合ってないという意見もあるようだが、個人的にはかなり気に入っている。物語が大正時代から始まったということもあって、このレトロな雰囲気の三拍子の曲が初回から好きだった。大晦日の紅白では椎名林檎がこの主題歌を歌うので、改めて聞いて判断してもらいたい。 

 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。