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『サバカン SABAKAN』(8月19日公開)

 ドラマ「半沢直樹」など、テレビや舞台の脚本・演出を手掛けてきた金沢知樹の映画初監督作。萩森淳と共同でオリジナル脚本も執筆した。タイトルの『サバカン SABAKAN』の意味は見てのお楽しみだが、実は切ない理由がある。

 1986年、夏の長崎。斉藤由貴とキン肉マン消しゴムが大好きな小学5年生の久田(番家一路)は、いつもけんかばかりしているが、実は愛情深い両親(竹原ピストル、尾野真千子)と弟と一緒に暮らしている。

 ある日、久田は、家が貧しく同級生からも避けられている竹本(原田琥之佑)から、イルカを見るために近くの島に行こうと誘われる。

 2人は久田の自転車に乗って出掛けるが、途中、不良に絡まれたり、自転車が壊れたり、溺れそうになったりと、さまざまなトラブルに遭いながらも、友情を育んでいった。

 だが、夏の終わり、親友となった2人にとって、別れを予感させる悲しい出来事が起こる。

 この映画は、作家になった大人の久田を草なぎ剛が演じ、彼の回想として語られるため、同じく、作家になった主人公(リチャード・ドレイファス)が、友と過ごした少年時代のひと夏の冒険を回想する『スタンド・バイ・ミー』(86)をほうふつとさせる。だから、日本(長崎)版の『スタンド・バイ・ミー』と呼びたくなるところがある。

 もちろん、この映画の挿入曲は、「スタンド・バイ・ミー」(ベン・E・キング)ではなく、「自転車にのって」(西岡恭蔵)と「酒と泪と男と女」(河島英五)だったが、竹原がアカペラで歌う後者もなかなかよかった。

 86年といえば、東京はバブルの真っただ中で虚飾に満ちた時代だっただけに、この映画の、長崎の風景や久田一家の飾り気のない姿、少年時代特有の濃密な友情などが、ことさら対照的に見えるところもある。その点、時代設定も秀逸だといえるだろう。

 それにしても、年を取ると、二度と戻らない時代や、過去への思慕を描いたこうした映画はことさら心に染みると改めて感じさせられた。

『ロッキーVSドラゴ ROCKY IV』(8月19日公開)

 シルベスター・スタローン監督・主演の『ロッキー4 炎の友情』(85・日本公開は86)が再構築され、『ロッキーVSドラゴ ROCKY IV』として生まれ変わった。約42分の新映像が、追加ではなく差し替えられたので、オリジナルとの印象は大きく違う。

 まず、『ロッキー4 炎の友情』は、どんなストーリーだったかというと、ボクシングを通して、宿敵から親友となったアポロ(カール・ウェザース)を、リング上で絶命させたソ連のドラゴ(ドルフ・ラングレン)に挑戦するため、ロッキー(スタローン)がモスクワに乗り込むというもの。

 この映画は、当時の米ソ関係、強いアメリカの復活といったテーマが色濃く反映され、レーガン大統領が手を貸したともうわさされた。

 そして、これだけ政治色の強い映画が大ヒットしたのは、ひとえにロッキー(米)対ドラゴ(ソ)が繰り広げるボクシングシーンの魅力に寄るところが大きかった。

 それから37年の時を経て、スタローンは、コロナ禍で身動きが取れない中、改めて、『ロッキー4』を見て、改善の余地があると気付き、再構築したというのだが、『ロッキー4』と同時期に公開された、トム・クルーズ主演の『トップガン』(86)の続編『トップガン マーヴェリック』の存在も頭にあったのではないかと推測する。

 そこには、自らもアメリカも強かった80年代を取り戻そうと考えるスタローンの目算があったはずだ。ところが、図らずもロシアのウクライナ侵攻が起き、この映画は別の意味を持つことになる。

 ロッキー対ドラゴの激闘を見ながら、80年代を懐かしむばかりでなく、今のロシアを取り巻く諸々の問題と重ね合わせながら見るという新たな視点が生まれたのだ。

 今回は、配信の予定はなく、映画館でのみ鑑賞が可能とのこと。『トップガン マーヴェリック』同様、この映画も、映画館で楽しむべき映画なので、それもまたよしだと思う。

(田中雄二)