夏休み。子供たちのオペラデビューにぴったりの作品が上演される[8月5日(土)6日(日)東京芸術劇場シアターイースト]。昨年ルクセンブルクで初演されたばかりの《アトランティス・コード》。演出を手がけるのは、ドイツを拠点に活躍する菅尾友。
タイトルは「アトランティスの暗号」の意。しかし本作は、1万年前に海中に沈んだ伝説の島を描いたSFアドヴェンチャーではない。母子の成長の物語。
「お母さんと息子の関係が中心で、そこにファンタジーの要素が入り込んできます。少年の成長。それを通してお母さんも学ぶという、非常に面白い物語です。音楽は現代的な音で書かれていますが、それが違和感なく、感情や物語のシチュエーションがすごくよくわかるように作られています」
ドイツ人の作曲家フランク・シュヴェマーと台本作家ミヒャエル・フロヴィンのコンビによる作品。
「10年ほど前に、彼らの《ロビン・フッド》という子供向けの作品を一緒にやって衝撃を受けました。巧みな言葉遊びと、その言葉に密接して書かれた音楽の面白さ。二人と一緒に作った新作の《アトランティス・コード》を、ぜひ日本の子供たちにも楽しんでもらいたいと思っていました」
言葉遊びを感じてもらうためには日本語翻訳が必須となる。日本語台本も菅尾が手がけた。
「難問でした(笑)。さいわい作曲家と作家と近い関係で、彼らが何を目指しているのかはわかっているので、ドイツ語を直訳するだけではなく、日本の感覚に置き換えて意訳したり、別の面白い方法を考えて。ミヒャエルも、東京の地名に変えた日本用に改訂した台本を書いてくれました」
ルクセンブルクの初演も菅尾が演出しているが、今回はそれとは別の新プロダクション。
「カラフルで楽しい強い舞台。大人たちも本当に楽しめると思います」
母と二人、貧しく暮らす少年は、読み書きに軽い障害があって苦労している。ある日アトランティス島の謎が書かれた本と出会った彼は、本の力で現れた不思議なアトランティスの住人との交流の中で、文字を読めるようになり、失われた島の謎を読み解こうとする。謎が明らかになると、人類によって再び滅ぼされてしまうと心配する不思議な生き物。一方、本を売れば金持ちになれると目論む母親。思いは三者三様だ。
少年を反中洋介(テノール)、母親を柳原由香(ソプラノ)、不思議な世界の生き物を宮地江奈(ソプラノ)が演じる。5人編成の小オーケストラ。指揮は齋藤友香理。
(宮本明)