吉岡里穂(HM:北原 果 KiKi inc./スタイリスト:安藤真由美 スーパーコンチネンタル)(C)エンタメOVO

 9月10日(日)午後10時からWOWOWで放送・配信スタート(第1話無料放送)となる「連続ドラマW 湊かなえ『落日』」(全4話)に出演する吉岡里帆。湊かなえのミステリー小説を原作にした本作で演じるのは、主演の北川景子扮(ふん)する映画監督・長谷部香と共に映画製作のため、15年前に起きた“笹塚町一家殺害事件”の真相を探っていく新人脚本家・甲斐真尋だ。吉岡は俳優として、身近な世界を舞台にした本作を通じてどんなことを感じたのか。その思いを聞いた。

-ある事件を映画化しようとする主人公・長谷部香と甲斐真尋の気迫あふれる物語に引き込まれます。真尋役を演じる上で、心掛けたことは?

 北川さん演じる香と真尋が手を組み、事件の映画化を通じてそれぞれのトラウマを乗り越え、希望を見いだしていく構図になっているのですが、その関係がとてもすてきなんです。相反する2人なのに、心の奥底でつながるような繊細さがあって。だから、演じるに当たっては2人の対比を大事にして、香の強さや格好良さ、包容力が引き立つように、真尋は前に進むことができず、停滞している雰囲気を心掛けました。

-吉岡さんは映画の街・京都の太秦育ちで、子どもの頃から映画を身近に感じてきたと思いますが、映画製作を題材にした本作に共感する部分はありましたか。

 「映画を信じている」という香のせりふにすごく共感しました。私自身、この仕事をするようになってから、映画の現場でもの作りをする人たちと出会うようになり、皆さんのワンカットずつ真摯(しんし)に撮っていく姿に、ぐっとくるものがあるんです。私もその一員になれたという誇りは今も強く持っています。だから、「映画を信じる」って、いい言葉だなと。

-子どもの頃を思い出すようなことも?

 私が育った地域では、かつては今より盛んに映画が撮影されていて、時代劇もたくさんあったそうです。子どもの頃は、近所のお店で侍の格好をした役者さんが休憩している姿もよく見かけましたし、映画村にあるお化け屋敷は本職の役者の方がお化けを演じているらしく、怖さが半端じゃなくて(笑)。当時はそれが当たり前だと思っていましたが、今考えると、恵まれた環境だったなと。

-日頃から仕事で関わる脚本家役を演じてみて、印象的だったことは?

 黒木瞳さん演じる大物脚本家・大畠凜子(真尋の師匠)とのやりとり中に、「今は他人のリアルをネットで簡単に見られる時代だから。頭の中で考えただけの物語じゃ追い付かなくなってる。自分の足を使って目で確かめて、リアルに追いついて、そこからさらに想像力で追い越す。そうしなきゃ次の10年は生き残れない」という話が出てくるんです。ただ面白おかしく脚色したり、勝手な想像だけで色をつけたりするのではなく、今という時代や題材に向き合い、きちんと取材して、真実を理解した上で、そこに必要な物語をつけ、脚本にしていく。それが、私達が目指すべきことではないの…? そんなアドバイスを真尋がもらうシーンは、すごく印象的でした。

-映画製作にかかわる人にとっては、大事なことかもしれませんね。さらに本作では、真尋や香だけでなく、ピアニストの真尋の姉など、エンターテインメントやアートといった文化的なものに関わる人物が他にも登場し、その魅力と怖さが描かれているのも印象的です。

 夢に対して真摯に向き合えば向き合うほど、狂気じみていく紙一重な様子は、とても湊先生らしいですよね。香が「事件を絶対に映画化したい」という執着も、美しさと強さの裏に狂気が潜んでいる感じがして。香が、真尋の過去を掘り下げていくシーンでは、何があったのか知りたい、という欲求を北川さんがまっすぐにぶつけてきたんです。そこでは、人に踏み込まれる瞬間の怖さを感じて、演じていてもドキドキしました。

-そのお芝居は見どころになりそうですね。

 とても見応えのあるシーンになったと思います。ただ今回は、湊先生の作品の中でも、希望をより濃く描いていると感じていたんです。湊先生が現場を見学に来てくださったとき、それをお伝えしたら、「そこさえ押さえていれば、自由に演じていただいて結構です」とおっしゃってくださって。だから、「希望」は大事にしたいと思っていました。

-湊さんに会えたことがお芝居にも役立ったと?

 そうですね。実はそれまで「湊先生に失礼があってはいけない」、「湊先生が考える真尋をトレースしなければ」とプレッシャーを感じていたんです。でも、お会いしたとき、私をまっすぐに見て、「真尋はこういう顔をしていたんだね。今をもって更新されました」と優しくおっしゃってくださって。そのとき、私が演じる真尋を受け入れてくださったことを感じて、安心して演じられるようになりました。

-本作で描かれている「希望」という点に関して、吉岡さんご自身が映画に救われた経験はありますか。

 もちろんです。素晴らしい映画に出会ったときは、その余韻がずっと続いて、満たされた気持ちにもなりますし。答えを提示してもらったような気になって、価値観がガラッと変わることもありますから。

-どんな作品に救われてきましたか。

 たくさんありますが、大ヒットしたインド映画『きっと、うまくいく』(09/“3バカ”と呼ばれる学生時代の仲間たちの絆をコメディータッチで描いた物語)を見た時は、明らかに自分の心がポジティブになっていることが分かりました。最近では、飛行機の中で久しぶりに『キューティ・ブロンド』(01/陽気でポジティブなヒロインが、一念発起して入学した名門法律学校で奮闘するコメディー)を見たんですけど、かわいいものが大好きで、自分に自信を持っている主人公がとてもすてきで、最高でした。そういうマインドは、普段の生活ではなかなか芽生えないので、改めて救われた気分になりました。

-映画やドラマには、そういう力もありますね。

 そんなふうに、一つの映画やドラマで人生が変わることもあると思うんです。この作品もそういう要素が強い気がします。だから、苦しみ抜いた香と真尋の2人が希望に向かって進んでいく姿に救われる方がいたら、演じる側としてはとてもうれしいです。

(取材・文・写真/井上健一)

9月10日(日)午後10時からWOWOWで放送・配信スタート(第1話無料放送)