演出家の松森望宏と俳優の桧山征翔が2016年に旗揚げし、多数の名戯曲を上演してきたCEDAR。その最新作が、近代演劇の父といわれる劇作家ユージン・オニールの『夜への長い旅路』だ。作者自身を投影した次男のエドマンドには松本幸大(ジャニーズJr.)、その母親でモルヒネ中毒のメアリーに彩輝なお。アルコールに溺れる長男ジェイミーに桧山、そして元シェイクスピア俳優で金に執着する父親ジェイムズには長谷川初範と、実力派が揃った。稽古も佳境に入った頃、松本と彩輝に話を聞いた。
共に舞台経験は豊富ながら、「ここまで少人数での会話劇は初めて」(松本)という2人。稽古場での様子を聞いてみると、「ベテランの長谷川さんが当時の時代背景や、家族ってこうだよね、など戯曲を読み解くためのお話をしてくださって。重いストーリーだけれど、稽古はいい雰囲気で進んでいます」と彩輝。松本は、「稽古場では集中力を途切らせないようにして、戯曲の細かい部分を確認中。だから皆さんとはあまり話せてないんですが…」と言いつつ、「長谷川さんの話が面白くて、聞こえてくるとつい耳を傾けちゃいます(笑)」と、こちらも自然体で稽古に挑んでいる様子だ。
本戯曲は4人家族の、ある夏の1日の物語。松本の言う通り、さりげない会話の積み重ねでそれぞれの内面を浮き彫りにするだけに、演者は細かな表現に心を砕くことになりそうだ。
「身体が弱くて詩に没頭するエドマンドは、僕とは全く違うタイプ。共感できるかというと難しいのですが、考えてみれば人間って、病気になったりつらかったりするとき、あからさまに顔や態度に出したりはしないですよね。エドマンドの態度もそういう状態の表れなのかなって」と松本は考察する。
彩輝も、「メアリーは息子が心のよりどころなんですが、心配が過ぎて自分を見失ってしまう。愛情って綺麗なだけじゃないし、それが“現実”なんだなと…」と真剣な表情に。「本当にね、なんとも言えない…」と考え込む松本に、「だから切ないよね」と彩輝。
「ただ、つらくてもやりきれなくても1日は過ぎる。その向こうにある“希望”を届けられたら」と話す松本の、まっすぐな瞳が印象に残った。
今回上演の劇場は、「すみだパークシアター倉」。舞台と客席の距離が近く、「お客様が俳優の体温を感じるかのような空間」(松本)、「初めてなので楽しみです」(彩輝)と口を揃える。ふたりの新しい表情が見られるのは、もうすぐだ。
取材・文/藤野さくら
■公演情報
CEDAR Produce vol.11 夜への長い旅路
公演期間:2023年9月16日(土)~24日(日)
会場:すみだパークシアター倉