新国立劇場オペラ「修道女アンジェリカ」「子どもと魔法」オペラトークより

プッチーニ《修道女アンジェリカ》とラヴェル《子どもと魔法》のダブルビル=2本立て上演(新制作)で幕を開ける新国立劇場の2023/24シーズン。指揮の沼尻竜典と演出の粟國淳が演目の魅力を語るオペラトークが開催され、熱心なファンが集まった(聞き手:井内美香)。[9月18日(月・祝)新国立劇場オペラハウス ホワイエ]

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ダブルビルというと、多くの場合は舞台装置を共有して上演する。しかし今回はあえて別々の装置を組み、作品の書法の違いをはっきりと見せることで、逆に両者に通じるテーマがどこにあるのかを感じてほしいと語った粟國。
その共通性については今回、「母の愛」という大きなテーマが掲げられているが、他にもたとえば、「それは本当に起きたことなのか?」。
《修道女アンジェリカ》のラストは、死んだ愛児が聖母とともに現れる奇跡のシーン。約100年前のMET初演時は、写実的すぎる演出が不評だったのだそう。粟國は「奇跡は本当に起きたのか。奇跡というのはみんなに見えるものではない。アンジェリカが奇跡と感じればそれが奇跡なのだという方向で描きたい」と話した。一方の《子どもと魔法》は、物や動物たちが動きしゃべるファンタジーな世界観そのものが、本当に起きていることのか、夢なのか。
言われて初めて気づいたのが、両作品に登場する「子ども」の年齢。アンジェリカが未婚の子を産んだのが7年前。《子どもと魔法》の主役である子どもの年齢も6~7歳という設定だ。「短く言うと“7歳ダブルビル”です」という沼尻の「分析」が大いにウケた。
沼尻が明かした修道女たちの衣裳に関わるエピソードも面白かった。立ち稽古では各自が役名のゼッケンをつけているのでわかりやすいのだけれど、同じ修道服を着て頭巾を被ると区別がつかず、指揮者としては歌のきっかけを与えるのに苦労するのだとか。しかし粟國によれば、それこそが大切なポイントだそうで、個が曖昧な修道院という社会の中で、修道女一人ひとりの個性が少しずつ描かれ、それがやがて大きく展開してアンジェリカの絶望と自殺につながるのだという。なるほど!

後半には歌手たちが登場して楽曲紹介も。眼前で繰り広げられるこまやかな歌唱の能弁さに、本番へのわくわく感が一気に最高潮に達した。新国立劇場の『修道女アンジェリカ/子どもと魔法』は10月1日(日)から9日(月・祝)まで全4公演。新国立劇場オペラパレスで。
(宮本明)