撮影:阿部章仁

舞台『未婚の女』が10月18日(水)から銕仙会 能楽研修所(東京都港区)で開幕する。
1945年4月、オーストリア北部の村。ナチスドイツによる支配が終わる数日前、一人の若い男が脱走兵として処刑された。兵士を密告したのは、村に住む若い女・マリア。しかし戦後、価値観は一転し、マリアはナチスの協力者として裁かれる。時は流れ、現代。ウルリケは祖母・マリアのノートから、この事件の真相に迫る。一方、ウルリケの母・イングリッドは、母に対する復讐を誓い――。

エーヴァルト・パルメツホーファーの戯曲で2014年にウィーンで初演された本作は、今回が日本初演となる。演劇やオペラ、映像作品などで活躍する深作健太が、現代社会が抱える問題をえぐるような鋭い視点で演出を手掛ける。

孫娘を務めるのは、声優でアーティストの夏川椎菜。昨年10月に上演された舞台『オルレアンの少女-ジャンヌ・ダルク-』で主演した夏川は「2度目の舞台。前回はすごく勉強になることばかりで、初心にかえるといいますか、舞台に立つ上での基礎を教えていただいた期間でした。今回もかなり前のめりで出演を決めました」と話す。

もともと中学時代から芝居に興味があったという夏川。声優やアーティスト活動を中心にしてきたが「舞台を観るのも好きですし、機会があるなら出演してみたいとスタッフに伝えてきました」。そして念願のプロとしての初舞台が『オルレアンの少女』だった。「身体の使い方や声の出し方が今まで自分がやってきた世界とは全然違って。前作の経験は、自分の声優としての仕事にも生かされているようにも感じます」。

再びタッグを組む深作への信頼も厚い。「読み合わせの稽古で、この戯曲が書かれた背景や作者の生い立ちを含めた考察をお話してくださいました。深作さんは〈なぜこのセリフをこのタイミングで言ったのか〉〈このセリフを聞いて観客にどう思ってほしいのか〉といったことを大切にされている演出家だと思います」と語る。

観客に対して夏川は「ドイツ演劇自体、エンタメとしての演劇ではないと思う。戯曲の内容やセリフを1ヶ月間かけて噛み砕いて、自分たちなりの解釈で表現するものを観客に受け取ってもらい、そこから再び考えてもらうところまでがセットになる気がしています。前のめりで受け取る姿勢で観ていただけたら、嬉しいです」と話した。

公演は10月22日(日)まで。

取材・文:五月女菜穂