撮影:岡千里

ステージ上手にはピアノ、下手にはソファー。ロレンツ・ハート(林翔太)の家で、彼はリチャード・ロジャース(寺西拓人)のメロディーに歌詞をつけ歌い出す。のちに大ヒットする「Manhattan」が生まれた瞬間だ。ふたりがブロードウェイで、ラジオで、ハリウッドで、数々のヒット曲を生み出す様子が小気味よいテンポで描かれていく。

ロジャースはドロシー(壮一帆)に、ハートはペギー(凰稀かなめ)に、想いを寄せる。しかし、ふたりの恋は明暗が分かれる。ロジャースはドロシーと結ばれ、ハートの想いはペギーに拒まれたのだ。その切なさは、第一幕ラストの「My Romance」、第二幕ラストの「Blue Moon」で、ふたりのハーモニーとなって観る者の胸を打つ。

2018年の初演から、大幅にブラッシュアップされた今回の公演。前回ロジャースを演じた林が今回はハートを、前回は4役を演じた寺西拓人がロジャースを演じ、これまで彼らが共演を重ねてきたなかで培ったコンビネーションで、魅力的なロジャース&ハートとなっていた。
林はいたずらっ子な少年のような笑顔で、天才肌のハートを表現。その一方、「Why Can’t I?」で報われない恋の苦しさも十二分に表現してみせた。寺西も伸びやかな歌声で、まっすぐなロジャースの心情を届ける。ふたりがブロードウェイに戻ることを決めて歌う「I Gotta Get Back To New York」などで、彼らの歌声の魅力が存分に伝わってきた。

ふたりを取り巻く人々は、上演台本・訳詞・演出を手がける玉野和紀はじめ、凰稀かなめ、壮一帆、藤岡正明、中河内雅貴らが複数の役柄を演じ分ける。藤岡のパワフルな歌声、中河内の艶やかな歌とダンス、そしてパフォーマンスはもちろん美しさも目を惹きつける凰稀・壮と、ゲネプロ終了後の取材会で「ミュージカル・モンスター」と林・寺西が称えた魅力が満載。非常に充実したステージだ。中でも、ラジオ番組でのドタバタとした展開、ハリウッドでのせわしない撮影所の模様と、コミカルさもロマンチックさもあるステージングは、キャストの歌とダンスの魅力が十二分に発揮されたシーンだったように感じる。

ロジャース&ハートのコンビの終わりと共に幕は下りるが、とても温かなものが心に残る素敵なエンディングだった。東京公演は有楽町よみうりホールにて、10月18日(水)まで。

取材・文:金井まゆみ