撮影:石阪大輔

歌舞伎三大名作の一つ『義経千本桜』から、2段目の「伏見稲荷鳥居前」(鳥居前)、4段目の「道行初音旅」(吉野山)「川連法眼館」(四の切)が、10月、「立川立飛歌舞伎特別公演」で“忠信篇”として上演される。主人公の“佐藤忠信実は源九郎狐”を、各演目で別の役者が演じるのも見どころの一つ。「吉野山」では市川團子が初役で勤め、その相手役の静御前を中村壱太郎が、「四の切」にも登場して披露する。今年6月の『傾城反魂香』や8月・9月の『新・水滸伝』で共演した二人が息を合わせ、どんな忠信と静を見せるのか。

『義経千本桜』の魅力を、「知盛、権太、忠信という3人のカッコいい主人公がいて、一つの物語としてきれいにつながっている」ところにあると話す團子に続いて、「今回はその一人の忠信を追っていける構成になっているので、歌舞伎を初めて観る方にもわかりやすい」と壱太郎。しかも、上演されるのが市川猿翁さん監修のバージョンとあって、けれん味もたっぷりだ。忠信は実は狐の化身で、幼い頃に父母が捕らえられて鼓の皮にされてしまい、親を慕って鼓を持つ静御前に付き従っているのだが、「猿翁のおじさまの『四の切』は、子狐のかわいらしさや親を思う気持ちが伝わってくるので、静御前も自然にほだされていくんです。今回の『四の切』で忠信を演じられる(市川)青虎さんもそれを受け継がれていますから。お子さんがご覧になってものめり込める楽しい要素がたくさん詰まっている作品になると思います」と壱太郎は語る。

猿翁の孫の團子は、祖父の著書などから、「芝居は子どもが遊ぶように無心でやるのがいい」といったことを学んできた。「吉野山」についても、「祖父が言っていた通り、場面ごとの意味を忠実に表現できるようにしたい。また、静御前とは主従関係なので色気がありすぎてもいけないけれどもなさすぎてもいけないその微妙なところを探り、物語のところは、しっかりと戦の情景や、人物の感情が伝わるように演じたい」と話し、それを受ける壱太郎は、「何度もやってきた静御前が、團子くんの忠信によってどう変わるのか楽しみ」と期待を高める。演目の前には「ご挨拶」として團子と壱太郎が話す時間もある。團子が壱太郎を「常に『大丈夫だよ』と励ましてくださる温かく優しい先輩」と称し、壱太郎が團子を「芝居への熱い思いがあって、知らぬ間にみんなを引っ張ってくれている」と語るその素顔も、覗けるかもしれない。

取材・文:大内弓子

■公演情報
立飛グループ創立100周年記念事業 立川立飛歌舞伎特別公演
公演期間:2023年10月25日(水)~28日(土)
会場:立川ステージガーデン