この秋を彩る来日オーケストラの中でも注目度が高いのがフィンランド出身の天才指揮者クラウス・マケラが率いるオスロ・フィルハーモニー管弦楽団だ。東京芸術劇場で行われたツアー初日のコンサート・レポートをお届けする。
マケラはまだ若干27歳。だが2020年からオスロ・フィルの首席指揮者、2021年からパリ管弦楽団の音楽監督、2022年からロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のアーティスティック・パートナーになるなど、驚くような一流オーケストラから次々と指名が来ているマエストロだ。
昨年のやはり10月にパリ管と行った来日公演が大評判となったが、今回は長くタッグを組んでいるノルウェーのオスロ・フィルとの来日。しかも演目は彼自身と同じフィンランドの巨匠シベリウスの交響曲第2番と第5番である。劇場はほぼ満席で、クラシック・ファンの期待がひしひしと感じられる熱い雰囲気だ。
長身のマケラが登場して交響曲第2番の演奏が始まった。フィンランドの広大な自然の、深い森や川が互い呼び合い、次第に集まってきているような有機的な音楽が聴こえてくる。第2楽章のファゴットは神秘的な音色、そして第4楽章では金管が迫り来る。後半にはより規模の大きな交響曲第5番。内声のヴィオラやチェロも力強い。最後の和音の連続で終わるまで、重厚なシベリウスの音楽は大きな盛り上がりの中に観客を巻き込んでいった。
マケラの才能はまず、作品とオーケストラへの洞察力が並外れていることがあげられるだろう。一年前のパリ管の華やかな響きやラヴェルの「ボレロ」などにおけるソロ奏者の個性が際立つ演奏と比べて、オスロ・フィルの音色はより骨太で、北欧らしい直裁的な響きが魅力だが、そのオーケストラの最高の演奏に立ち会っている、という感覚は変わらない。マケラは作品の本質を見抜くのと同じ深さで、自分が指揮をするオーケストラの美質を見抜く力があるのだ。
そしてもうひとつの大きな美点は生命力にあふれた音の響きと、客席への届き方だ。スケールが大きいフレージングと、思い切った棒から生まれるタイミングと音の勢いの見事さ。おそらく生まれ持った音楽性なのだろう。その素晴らしさは録音でも味わえるが、彼の音楽と一体になる幸せは同じ空間にいるからこそだ。
終演後の客席では熱い拍手が長く続いた。アンコールに演奏されたシベリウス「レンミンカイネンの帰郷」の疾走感も目を見張るものがあった。
取材・文:井内美香
■オスロ・フィルハーモニー管弦楽団2023年ツアー 今後の日程
10月
20日(金)アクトシティ浜松 大ホール
21日(土)愛知県芸術劇場 コンサートホール
22日(日)フェスティバルホール
23日(月)サントリーホール 大ホール
24日(火)サントリーホール 大ホール
26日(木)熊本県立劇場 コンサートホール
※ソリスト:辻井伸行 (10/24以外)