ありえない言い訳
「彼の職場は地元でも有名な家具屋さんで、仲間の友人はそこでアルバイトをしていて、彼のこともよく知っているそうです。
『本当に離婚したのか気になって』とその子は言ってくれたけど、あのとき確認してくれなかったら、ずっと嘘をつかれたままだっただろうなと思います」
悔しそうに表情を歪めながらそう話す由里子さんは、あの夜「好きだよ」と言われて抱かれた自分を今でも呪っているといいます。
彼自身が「離婚した」と口にしたけれど、別の事実では妻の誕生日を一緒に祝った話を会社でしている。
この矛盾に由里子さんは耐えられず、その日の夜彼に電話をかけて着信を残し、遅い時間にやっとかけ直してきた男性に「本当に離婚しているの?」と単刀直入に尋ねます。
「私に何かあって結婚していることがバレた、とすぐに気づいたらしく、『離婚するつもり』『妻がなかなか受け入れてくれなくて』と言い訳を始めました。
私を好きなことも本当だし付き合ってほしい、とも言われたのですが、そのときはもう落胆というかショックが大きくて、言葉が出なかったですね……」
「いずれ離婚するから、もうしたって言っても大丈夫だと思った」。これが、由里子さんには一番許せなかったといいます。
男性にどんな心づもりがあれ、「まだ結婚しているとわかっていたならホテルに行くことは絶対にしなかった」のが由里子さんの真実です。
男性の言い分では「嘘をついてでも由里子さんと付き合いたかった」ですが、由里子さんにとっては「一番大事な部分で嘘をつくことが信じられない」のが実感で、いくら好きだと繰り返されようが、心が動くことはありませんでした。
「結局、飲み会で自由になる夜にホテルに行ける女性がほしかっただけでは、とまで考えました。
私のことを『純粋』『素直』と彼は言っていて、要は付け込みやすいと思われたのかもしれないって」
投げやりな口調でそう言って、由里子さんは唇を噛みました。