相手の「思いやり」のとおりに動かなかった…

やんわりとそう伝えると、「強引だなんて、そんな」と有里さんは驚いたように目を見開きました。

自分のしていることは男性にとって喜ばれるはず、という思い込みが強いと、そんな自分が違う見方をされていることに戸惑いを覚えます。

「迎えはいいよ」という彼氏からの提案を「却下した」とは有里さんは思っておらず、「それは私への気遣いだから、私が大丈夫と言うならそれを信じて」とあくまでも彼氏への優しさのつもりで、迎えに行くことにこだわりました。

ここできっぱりと「寝ていてくれるほうがこっちも気楽だから」と彼氏が言えていれば、また違う方向になったのだろうと思いますが、それは有里さんの優しさを否定すると考えれば口にしづらいかもしれません。

すれ違いは、彼氏の側から伝えられる有里さんへの「思いやり」を、彼女が受け取らないことです。

「掃除なんてしなくていいよ」という彼氏の言葉は、有里さんにとっては「私にゆっくりしてほしいという配慮」であって、その受け止め方は正しいのに肝心の「本当にゆっくりする」を、有里さんは叶えていないのですね。

彼氏にとっては「一緒にダラダラしたい」が本心であったかもしれず、それを確認しないことがすれ違いを大きくします。

有里さんが尽くしたいと思うのと等しく、男性のほうにも彼女に向ける優しさがあり、それを否定されたと感じ続けることが交際を難しくするのではないでしょうか。

「受け入れる」ことも大きな信頼

男女関係なく、好きな人のために何かしたい、自分の力を役立てたいと思うのは、愛情の現れですよね。

それを「させてくれる」ことで相手の愛情を感じる、という場面も多いですが、尽くすのが一方的になるときが問題です。

「しなくていいよ」「大丈夫だよ」と言われたときは、相手の「どうしたいか」まで確認する姿勢が、こんなすれ違いを防ぎます。

相手の優しさや思いやりをきちんと受け止めることは、愛情と等しく信頼を育てるのです。

「相手のために」と思っても実はそうじゃない、なんて知ることは悲しいときもありますが、底に横たわるのが自分への愛情だとしたら、それは受け入れて「わかった」と返す姿が相手にとっては信頼になります。

「本心を伝えてもいいのだ」の安心感が、「1時を超えても連絡がないときは寝ていてね」のような相手の気持ちを汲んだ次の提案を生みます。

「尽くし型」の人に多いのが、自分の提案を「思いやりから却下する相手」にさらに自分のしたいことを押し付ける姿。その場で「あなたはどうしたい?」と本心を確認する一呼吸があれば、窮屈さを避けられるはずです。

尽くされる側に立てば、自分のためを思って動こうとしてくれる相手にはまず感謝の気持ちがあり、そのうえで「叶えられないときもある」のはお互いさま、素直に本心を伝えられる心の距離感を大切にしたいですね。

有里さんは、彼氏の気持ちをいっさい聞いていなかった自分に気が付き、「縛られる」の意味は不自由さにあった可能性を考えていました。

よかれと思ってあれこれ手を尽くしていた自分と、そうではなかった彼氏の本心は今となっては確認するすべもありませんが、愛情があっても「受け入れてもらう」が叶わない関係では続かないこともある、と知ることで次の恋愛はまったく違うものになるはずです。

尽くしたい気持ちを否定されることは悲しいですが、何より確認したいのは相手の本心であり、お互いに伝えあって「ふたりにとって良い提案」ができることが、幸せな交際では重要です。

見返りの有無に関係なく、向けてもらった優しさはしっかりと受け止める力も、ふたりの信頼を強くします。

尽くしたいときこそ相手の意思を知ろうとする姿勢を、忘れたくないですね。