「おいなりさん」の目指すラーメン

店頭に掲示された「おいなりさん」の自己紹介文

高橋さんの話によると、「ガッツリラーメン それは私のおいなりさんだ」は、ラーメンコンサルとして「渡なべ」(高田馬場)など数々のラーメン店をプロデュースする渡辺樹庵さんの協力のもと生まれた店であるらしい。

高橋さんが渡辺氏に出会ったのは、今から10年以上も前のこと。当時まだラーメンコンサルとして活躍する以前の渡辺氏が神奈川区・六角橋にあった高橋さんの店を訪れたことから、店主と客として意気投合。その後渡辺氏がラーメン業界に進出したことで、ますます交流が盛んになったのだとか。

今回の「おいなりさん」構想も2人のガッツリラーメンに対する疑問から発展したものだとういう。ラーメン業界にいると、いろいろな裏情報も耳に入るのだろう。
 

 
本当に美味しいと思えるようなガッツリラーメンを提案したいと語る高橋さん

「2人で『なかなか美味しいと思えるガッツリラーメンってないよね』って話をしていたんです。骨を一切煮ない、野菜を一切煮ない、そんなお店さんもけっこうあるんですよ」と高橋さん。

時代の流れとしてガッツリラーメンを売る店は増えているが、それと比例してまともにスープを取っているとは思えない粗悪なラーメンを提供する店も増えていると彼は憂う。

そんなガッツリラーメン界に一石を投じるべくオープンした「おいなりさん」。そのこだわりのスープのベースとなるのは、渡辺氏が過去にプロデュースした「らーめん 天空」(神奈川区子安通・2010年9月閉店)の濃厚甘辛醤油味。
 

新横浜ラーメン博物館に入る「すみれ」

もともと高橋さんのお気に入りだったという『天空』の醤油味。そこにもうひとつ、高橋・渡辺両氏の大好きな『すみれ』(本店は札幌市)の醤油味のようなエッセンスを取り込みつつ組み立てたのだという。

「すみれ」と言えば、新横浜ラーメン博物館にも店舗を出す味噌ラーメンの名店。(記事『年間フリーパスで“秘密のVIPルーム”も!? 『新横浜ラーメン博物館』の全貌を見た!』[ http://ure.pia.co.jp/articles/-/17668 ] 参照)正直、筆者は味噌ラーメンしか食べたことがないのだが、高橋さんいわく「『すみれ』は味噌より醤油が美味!」なんだとか。
そして完成した「おいなりさん」のスープのお味は……?

「僕の中ではかなりお気に入りの味になってます!」と満足そうな表情。とはいえ、あの長~い名前のお店にもしっかりファンはついていたはず。もったいない気もするのだが、なぜ今このタイミングで「おいなりさん」なのだろうか?

すると高橋さん、「実は、もともと人生チャレンジングな方に進んでしまう性質の人間なんです」と、少々やっかいな性(質)癖をカミングアウト。「やりたいと思ったら、面白そうなことを見たら、そっちに手を出さずにはいられないみたいなところがあって」とのこと。

六角橋の味を日吉で復活させることを最もチャレンジングなことと判断し、オープンさせた長い名前の店。

長い名前の店で提供されていた六角橋時代の味に近いラーメン

しかし、その後しばらく店をやっていく中で、彼は「本当にこれでよかったのか」と葛藤するようになる。時代のニーズ、街のニーズとして、今ここでやるべきはガッツリ系なのではないか……。彼は悩み、そして大いに迷った。

そんな2013年のある日、彼の迷いを断ち切る衝撃のニュースが耳に入る。

「変態仮面」映画化――。

ん?

「そのニュースを聞いて、僕の中の『おいなりさん』への情熱と敬意が再燃してしまったんです」

へ?

「もともと『そのおいなりさんは私のだ』という言葉は僕の座右の銘なんです」

はいぃぃぃ!?

ラーメンへの想いを語る高橋さんの真っ直ぐな瞳にキュンキュンしていて何か重要なことを忘れていたが、ここはそう……『それは私のおいなりさんだ』。熱いラーメン談義で終わるはずはなかったのだ。

「あの言葉にどれだけ私の人生、勇気づけられてきただろうか」と、遠い過去を振り返る姿は、すっかり「変態仮面」の世界の住人。ラーメンを語る以上に熱い口調で語られるその話によると、彼は心が落ち込む時、くじけそうな時「それは私のおいなりさんだ」というそのシーンを思い浮かべることで乗り越えてきたのだという。

「あのシーンを最初に見た時の衝撃。あの衝撃がずっと脳裏から離れないままに生きているというか……ぜひともリスペクトを込めてラーメン屋の店名にしたいというか……(以下省略)」と、さらに話は続く。それはもう、まったく筆者の理解を超えた高橋ワールド。

そこで、長くなりそうなので話もとりあえずラーメンを注文することに。