『ファスター』稽古場より。デヴィット・ビントレー 『ファスター』稽古場より。デヴィット・ビントレー

新国立劇場では、舞踊芸術監督デヴィッド・ビントレーの振付作品『ファスター』と『カルミナ・ブラーナ』が間もなく初日を迎える。春の柔らかい陽射しに包まれた稽古場では、カラフルなスニーカーを履いたダンサーたちが『ファスター』の最終楽章のリハーサルを行っており、来日したばかりのビントレーと、バーミンガム・ロイヤル・バレエから招かれた、ノーテイター(舞踊譜に記された振付を伝達する専門家)の、パトリシア・ティアニーがシリアスな口調で振付を仕上げていた。

新国立劇場バレエ『ファスター/カルミナ・ブラーナ』チケット情報

『ファスター』は、2012年ロンドン五輪を祝して創作された作品で、五輪の標語である「Faster, Higher, Strongerより速く、より高く、より強く」に因んでおり、ダンサーがアスリートの精神性や、自分たちに共通する葛藤を重ね併せて表現し、ビントレーの世界観が溢れている。作品は3つの楽章で構成され、第一楽章は跳ぶ、投げる、という主題で、新体操、投てきなどの動きを象徴的に取り入れている。第二楽章のファイターズは、闘いの精神や、怪我を乗り越える心理状況が、静かなパ・ド・ドゥで表され、福岡雄大、小野絢子のペアと、別日には昨年バーミンガム・ロイヤル・バレエでプリンシパルに昇格したばかりのタイロン・シングルトン、近年大きな役に抜擢されている奥田花純が配されている。最終楽章は8分間走り続けるマラソンの場面で、パトリシアが「もっと音のアクセントに合わせて! 移動したら、自分の場所に戻って!」など声を飛ばしている中、ビントレーはフォーメーションが完成していく様子を確認しながら、ダンサーたちに細かい動きを指示していた。軸となるソリストを務める五月女遥は、ただ走るだけではなく優雅で滑らかな動きで作品の芸術性を高めていた。音楽はビントレー作品『E=mc2』を作曲したマシュー・ハインドソン。特に最終楽章はラガーフォンと呼ばれる伝統楽器が音楽と振付の融合を際立たせ、ゲームをクリアしたようなリラックス感が楽しい。

『カルミナ・ブラーナ』は3回目の上演となるが、初演で神学生に抜擢され、その身体能力の高さをビントレーに見出された八幡顕光を始めとする新国立劇場のダンサーたちが、生の歌声に乗ってエネルギッシュな舞台を繰り広げる。求愛や再生を描いたカール・オルフとは別のアプローチを試みたビントレーは、信仰から堕落に傾いた神学生たちは罰を受けて地獄へ落ちたと結末を語る。振付家なら一度は舞台化を夢見る『カルミナ・ブラーナ』の強烈な個性を放つ音楽と、ビントレーのユニークな解釈をたっぷり堪能したい。

新国立劇場バレエ『ファスター/カルミナ・ブラーナ』は4月19日(土)・20日(日)、25日(金)から27日(日)まで。チケット発売中。

取材・文:高橋恭子(舞踊ジャーナリスト)