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『猿の惑星/キングダム』(5月10日公開)

 今から300年後の地球。荒廃した世界で高い知能と言語を得た猿たちが、文明も言語も失い野生化した人類を支配していた。そんな中、若きノア(オーウェン・ティーグ)は、巨大な帝国を築く独裁者プロキシマス・シーザー(ケビン・デュランド)によって村と家族を奪われる。

 ノアは、旅の途中で出会ったオランウータンのラカ(ピーター・マコン)と人間の女性ノヴァ(フレイヤ・アーラン)と共に、プロキシマスの支配に立ち向かうことを決意する。だが、ノヴァはある秘密を隠していた…。

 この映画は、『猿の惑星』(68)をリブートした『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(11)『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(14)『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(17)に続く、リブートシリーズの第4弾だが、“完全新作”という触れ込みなので、独立した話として、過去作を見ていなくても問題はない作りになっている。監督はウェス・ボール。

 そんなこの映画は、若きノアを巡るアドベンチャーであり、成長物語でもある。正直なところ、最初はあまりにもリアルな猿たちの姿に違和感を覚えるのだが、いつの間にか彼らに感情移入している自分に気付き、猿の姿を借りて繰り広げられる“人間ドラマ”を見ている気分になる。

 これは、俳優の演技を忠実にCGに落とし込み、違和感を抱かせないWETA(VFX制作会社)の技術が大きく影響している。オリジナルの『猿の惑星』では人間にメーキャップを施して猿にしたが、今はモーションキャプチャーとVFXを使って人間を猿にする。その意味では『猿の惑星』シリーズには、映画技術の進歩を象徴していると言っても過言ではないだろう。

 また、オリジナルの公開から56年の間に、こうして手を変え品を変え、飽きずに作り続けられる理由はどこにあるのか。それは、猿と人間の立場の逆転という衝撃的な設定の奥に、猿をメタファーとして、支配する者とされる者、差別や偏見といった普遍的な問題を内包しているからに他ならない。リブートシリーズからはウイルスのまん延や世界各地で続く紛争といった今日的な問題も加味されている。

 この映画は、そうした“伝統”を継承しながら、“完全新作”となっているところが見事。迫力あるスペクタクルシーンも含めて、映画館の大画面で見るべき映画だと言えるだろう。

『恋するプリテンダー』(5月10日公開)

 弁護士を目指してロースクールに通うビー(シドニー・スウィーニー)は、街角のカフェで偶然知り合った金融マンのベン(グレン・パウエル)と最高の初デートをするが、ちょっとした行き違いが原因で燃え上がった恋心も一気に冷めてしまう。

 数年後、そんな2人がオーストラリアで行われるビーの姉の結婚式で再会することに。真夏のリゾートウエディングに皆が心躍らせる中、2人は険悪なムードを漂わせる。

 だが、復縁を迫る元彼から逃げたいビーと元彼女の気を引いてよりを戻したいベンは、互いの望みをかなえるために恋人同士のふりをすることになるのだが…。原題は「anyone but you=あなた以外の誰か」だが、この場合、「プリテンダー=ふりをする人」と付けた邦題も的を得ている。

 コロナ禍の影響もあってすっかり鳴りを潜めた感があった“お気楽なラブコメ”が久しぶりに復活した。舞台は海外のリゾート地、実は引かれ合っているのに仲違いした男女が、いい人ばかりの周囲を巻き込んでの大騒動を繰り広げながら、最後は…というのは、まさにラブコメの王道だ。

 そんな結末は最初から予想がつくから、要はそこに持っていくまでをどう見せるかが勝負の分かれ目となる。その点、この映画は、“恋人のふりをする”といういかにもわざとらしい設定を持ってきて、見る者に「早く自分の気持ちに正直になれ」とじれったさを感じさせるところがずるい。そんな中で、コケティッシュな魅力を発散するスウィーニーがなかなかいい。

 監督は「ピーターラビット」シリーズのウィル・グラック。ビーの姉は同性婚というところが今風だが、グラック監督は『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』(21)の時に、「今世界中にはいろいろな家族の形があるので、その多様さを表現した」と語っていたので、そうした考えがこの映画にも反映されているのかもしれないと思った。

(田中雄二)