日本は世界有数の地震大国である。今年1月の能登半島地震はもちろんのこと、東日本大震災、阪神淡路大震災など、わずか20年の間に大きな被害をもたらした地震が多数発生している。大雨による災害も年々甚大になっている。2023年に発生した土砂災害は1471件に達している。台風の通り道にもなっていて、多い時に1年で10個もの台風が上陸する。日本人にとって、災害に遭遇する確率は決して小さくないのだ。決して「不測」の事態ではない、さまざまな災害に対して、最新のガジェットやアプリで防災対策を施そう。
日本は多様な災害の危険に晒されている
気象庁によると、3時間降水量が150ミリを超える大雨の年間発生回数は、この10年で34回発生している。また、この30年間で震度6以上の地震は20回以上。17年に発生した床下浸水は1万7925棟もあった。このような自然災害はもとより、サイバー攻撃によるインフラの麻痺の可能性も絵空事ではない。なお、ウクライナ侵攻では電力網や物流業界へのサイバー攻撃が行われた。
徒歩圏内にいくつものコンビニがあって、お腹が空いたらいつでも食べ物が買える。スーパーマーケットにはすぐに食べられる惣菜が何種類も並んでいる。スイッチを入れれば煌々とした照明が灯り、スマホでさまざまな情報が手に入る。
日本は本当に便利な国だ。昨日と同じ今日がくるのなら。しかし、一度大きな災害が起こったら、この便利さはたちまち失われる。地震や大雨などで道路が不通になれば、物流が止まりコンビニやスーパーマーケットの食料はあっという間に在庫がなくなる。
電線が切れれば停電になる。被災地の親類知人が心配で電話をかける人が集中すれば、電話がつながらなくなる。スマホも基地局に被害があればつながらない場合がある。便利になりすぎた日本では、便利が当たり前のように思いがちだから、その便利が消滅したら生存の危機にさえなりかねない。何かあった時に備えて、最低3日間、可能であれば一週間、全ての便利が消え失せた世界でもサバイバルできるようにしておくことで、安心して暮らせる。
まず命を守る行動を心がけよう
災害時にまずやるべきことは、自分の命を守ること。自分が怪我をしたり死んでしまったりしては、守るべきものを守れない。命を守るために必要なことは、「情報」だ。
地震の場合、いち早く地震がくることが分かれば、地震による被害から身を守れる可能性が高まる。日本には、気象庁が中心となって提供している緊急地震速報というシステムがある。震度4以上の地震が来る数十秒前、場合によってはわずか数秒前だが、事前にケータイやスマホに一斉配信される。この緊急地震速報、iPhoneやAndroidスマホで受信すると、警報音と通知が表示されるのだが、詳細で視覚的に情報を伝えるアプリもさまざまある。
今回紹介するのは「地震津波の会」というそのものズバリなネーミングのアプリだ。このアプリは、緊急地震速報を受信すると、想定震度、発生場所を日本地図で表示するとともに、到達までの時間をカウントダウンする。
残り時間が分かれば、今できる避難行動をある程度選択できる。短ければとりあえず倒れそうなものから離れる、到達までの余裕がありそうなら、机の下などに隠れるなど、安全な避難行動がとれるのだ。
ちなみに、地震の時の避難行動として覚えておきたいのは屋内の場合、(1)倒れてくる家具がない場所、(2)窓がない場所(ガラスが割れて怪我をする可能性がある)、(3)閉じ込められない場所(トイレなど狭くて物が少ない場所は悪くないが、建具が歪む可能性があるので、ドアは開けておくこと)、(4)余裕があれば、机やテーブルの下に隠れる、(5)手近にクッションや座布団があればそれで頭を守る――などだ。
屋内の場合、建物の耐震性が重要な要素なので、自分のいる建物の築年数は常に意識しておくことをおすすめする。築年数が30年以下であれば耐震性が高いので室内にいた方が安全だが、80年以前の建物は倒壊の可能性もあるので屋外に出た方がいいかもしれない。
ちなみに、筆者の家は築15年のマンションなので安全性が高いが、可能であれば玄関に通じる廊下に出ようと心がけている。廊下は、「物が少ない」「空間が狭いので構造的にしっかりしている」「玄関が近いのでいざという時に脱出しやすい」というメリットがある。
日頃から、もし自宅にいるときに地震があった場合を想定して、どこに避難するかを家族で確認しておくと良いだろう。
なお屋外の場合は、(1)建物のそばを離れる(寄らば大樹の陰、という感じでついしっかりしてそうな建物のそばに寄りたくなるが、建物は倒壊する恐れがある。高層ビルならばガラスが割れて落ちてくる可能性もある)、(2)電柱や看板などがない広い場所(街中ではなかなかないけれど)、(3)車道から離れる(運転手が操作を誤るなどして車が突っ込んでくるかもしれない)――などとなる。
もし、自分が車を運転している時に地震にあったら、できるだけゆっくりと路肩に停車して揺れが収まるのを待つこと。慌てて車外に出ると、暴走した車に轢かれるかもしれないし、車を移動させる必要があるかもしれないからだ。
ちなみに「地震津波の会」アプリは、その名の通り津波の情報も表示する。海辺近くにいる時は、津波情報に留意して、いち早く避難行動をとることが大切。東日本大震災の経験からも明らかだ。地震津波の会アプリには、世界初のテクノロジーとして「津波レーダー」の情報も表示されるので、津波に対してより早くより正確に状況を把握できる。
自分の身を守ったあとは家族が心配
無事、地震や津波から自分の身を守れたが、もし自分が外出中に災害に遭ったら離れている家族の身が心配だ。「学校に行っている子どもは大丈夫だろうか」「家にいるはずの妻は」「離れて暮らしている両親は」など。そこで、家族や親の安否を確認するために、スマホで電話をする。
これは、誰もがとる行動だろう。そう、「誰も」がとるということは、何千人、何万人の人が同時に一斉に電話をかけるということになる。普段はかけると必ず相手につながるスマホだが、電波を使用して通話している。当然ながら通話に割り当てられている電波には限りがあるので、同じエリアにいる数千人もの人が一斉に電話をかけると、割り当て電波が飽和状態になってしまう。
そうなると、緊急性の高い通話もつながらなくなってしまうため、大きな災害時には通信事業者各社が音声通話を70%以上制限することがある。
なので、災害時に家族の安否を確認しようと電話をしても、つながらない状態になることが多いのだ。
では、固定電話なら大丈夫かというとスマホと同様だ。固定電話は交換機を通じて電話機同士をつないでいるが、交換機もつなげる回線数に限りがあるので、同時・一斉に電話が集中すると交換機がパンクして電話がつながらなくなる。
このことを踏まえると、災害時の安否確認に電話は役に立たなくなる可能性が高い。そこで、普段から家族同士で安否確認の方法を確認し合っておくことが重要になる。
電話以外で安否確認をする方法
災害時には電話による安否確認ができない可能性が高いというわけだが、これはあくまでも「通話」の話。スマホの基地局が生きていてインターネットにつなげられるのであれば、通信は可能。メールやSNSなど、インターネットを利用したコミュニケーションはできるということだ。
ということで、まずはLINEを使ってみることをおすすめする。日本では、スマホを持っている人であれば、ほぼ100%、LINEを使ったことがあるだろう。万が一の災害に備えて、家族だけのLINEグループを作っておけば、別々の場所で被災した時、そのグループに各自が無事でいることを投稿すれば、安否確認ができる。
ただし、日本人のほとんどがLINEを使っているということは災害時には一斉にLINEに投稿する、ということでもある。場合によっては、LINEのサーバーがパンクすることもあり得るということだ。それを考えると、バックアップ用の安否確認方法も用意しておきたい。
そこで、例えば「ココダヨ」というアプリ。
ココダヨは、緊急地震速報などに連動して、災害があった時、登録メンバー全員に位置情報を自動送信して、安否と居場所を同時に確認できるという防災アプリ。同アプリでグループ設定した人専用のグループチャットも用意されている。被災者やその家族が一斉にLINEにアクセスして、万が一、LINEのサーバーがパンクしてしまった時でも、ココダヨのグループチャットで連絡を取り合うことができるので安心だ。
ここまでは、スマホでインターネットにアクセスできた場合の安否確認の方法。では、基地局が停電や倒壊、浸水などで使えなくなっている場合はどうすればいいのか。そういった事態も想定した連絡方法を知っておくことも大事だ。
スマホもメールもSNSも使えなくなった時、最後の手段として頼りになるもの。それは「公衆電話」だ。
近頃、すっかり見かけなくなってしまった公衆電話だが、それもそのはず。08年頃まで30万台あった公衆電話は、19年に15万台と半減しているのだ。ただ、この公衆電話、実は災害にめっぽう強い。
大きな災害があると、スマホも固定電話も通話制限がかかるのだが、公衆電話は「災害時優先通信」の手段とされているため、スマホや固定電話がつながらない時でも優先的に発信できる。被災地から遠く離れて暮らしている両親や子どもがいる場合、公衆電話からその家族に電話で無事を伝えることができるのだ。
今やテレフォンカードは「絶滅危惧種」だろうが、もし引き出しのどこかに残っていたら、財布などに忍ばせておくといいだろう。そして、キャッシュレス全盛の時代とはいえ、10円玉と100円玉を緊急時の公衆電話用に持っておくことも安心につながる。
だが、被災地内の家族のスマホなどは通話制限がかかっているため公衆電話からでもつながらないだろう。そんな時に備えて覚えておきたい安否確認方法が、「災害用伝言ダイヤル」だ。
「伝言ダイヤル」と聞くと、ある年齢以上は懐かしく思うかもしれない。ケータイが普及する前、個人間でメッセージをやり取りする手段として80年代に登場したが、ケータイの普及とともに16年に廃止されたサービスだ。
しかし、災害時に有用な連絡手段となるため、災害用伝言ダイヤルとしてその仕組みが継続されている。災害用のため、普段は使えないので、いざという時のために練習しておくことができないが、接続すれば音声ガイダンスが流れるので使い方に迷うことはない。
なので、覚えておきたいのは「171」という電話番号だけだ。安否確認をするためのサービスだから「い・な・い」という語呂合わせで覚えておくといいだろう。
使い方だが、録音、または再生をするための個人確認として電話番号を使用する。自分が被災者で無事を連絡したい場合は、自分の電話番号を入力してメッセージを録音。遠くの家族がその安否を確認する場合は、被災地にいる家族の電話番号を入力してメッセージを再生する。
仕組み上、電話番号を知っている人であれば、誰でもメッセージを録音・再生できるので、家族に限らず、友人であっても安否確認ができるようになっている。もし、特定の人にしか聞かれたくないメッセージを残したい場合は暗証番号も設定できるので、個人情報を伝えたい時は暗証番号付きにすれば安心だ。
デジタル全盛時代でもアナログな方法も用意しておくのが防災マインド
今の時代、スマホ一つあれば、電話も写真もメールもインターネットも、さらには支払いまでなんでもできる。うっかり財布を忘れて外出しても、スマホさえ忘れていなければ、多分1日くらいならなんとかなる。
ただし、それは平時の話だ。もし、外出中に阪神淡路大震災や東日本大震災級の大地震に見舞われたら、頼みの綱のスマホが使えなくなってしまう可能性はある。通信網は無事でも、災害時に落としたり、転倒したりして壊れてしまうかもしれない。さまざまな情報からお金まで、スマホに頼りっぱなしだったら、もうお手上げだ。
なので、もしもの時に備えておくのであれば、アナログなツールも用意しておこう。具体的には、非常時用の情報カードとお金だ。非常時用情報カードとは、万が一の時に必要な情報を記録してあるカードのこと。
最低限書いておく内容は、「自分の名前(ふりがなも書いておくこと)」、「自分の住所」「自分の電話番号」「自分に何かあった時連絡してほしい連絡先(家族、会社など)」だ。これ以上の個人情報を書くと、万が一、落とした時などに不安なので必要最低限にしておこう。
筆者は、この情報を「緊急連絡先カード」として名刺サイズにプリントアウトし、ラミネートしたものを名刺入れに入れている。
緊急連絡先として妻の電話番号と弟の電話番号を書いているのだが、これは前述の非常用伝言ダイヤルを使う時にも役に立つ。今や電話番号は全てスマホが覚えているので、自分の電話番号以外は記憶していない。もしスマホが使えなくなった時にこのカードがあれば自分も安心なのだ。スマホを忘れて外出してしまったとか、外出先でスマホを落としてしまった、という時にも使える。
もう一つのお金は、必要性を説明するまでもないだろう。いざという時には、やはりお金が役に立つ。
お金のポイントは、「小銭」が必要ということ。公衆電話を利用するには小銭がいるのだが、キャッシュレスな時代なので小銭を意外と持ち合わせていないことが多い。なので、普段は使わなくても万が一のための小銭をポケットやカバンに忍ばせておくといいだろう。
ある程度の金額があれば、お財布を忘れた時にも役立つ。なお、筆者はコインホルダーを愛用している。
このホルダー、ジャラジャラさせないで500円、50円、5円を各4枚、100円、10円、1円を各5枚、合計2775円をスマートに携帯できる。支払う時はスマートにコインを出せる。
欠点は、お釣りをもらった時に収納するのが面倒なことと、容量を超えたお釣りをもらうと、収納できないこと。なので、普段使いよりも非常用のコインとして持ち歩くのがいいかもしれない。
デジタルとアナログのツールのバランスを
遭遇しないのが一番だが、万が一の防災対策として、デジタルツールとアナログツールをバランスよく取り入れておくことをおすすめする。(3Dデザイナーズスクール https://3dschool.jp/ 学長・西脇 功)
西脇 功
3Dデザイナーズスクール(https://3dschool.jp/)学長。製薬会社勤務を経て、1987年にApple社のMacintoshに出会いコンピュータ業界へと転進。IT系企業数社でコンテンツマーケティング、広報・宣伝のプロとして活動。製品導入事例の執筆、オウンドメディアのWebサイト立ち上げからコンテンツ作成までを一人で担当。2020年独立し、合同会社天使の時間を設立。3DCGソフト活用のためのオンラインスクール運営や、Webメディアへの記事執筆を行っている。