演劇集団キャラメルボックスが、劇団初の試みとして、映画作品からの舞台化に挑戦。その意欲作『鍵泥棒のメソッド』が、5月10日、東京・サンシャイン劇場で幕を開けた。本作ではメインの3人がダブルキャストとなっており、この日は畑中智行、阿部丈二、渡邊安理の“Black”バージョンを観劇。なお“White”バージョンは多田直人、岡田達也、岡内美喜子が務める。
人生に絶望し、自殺を図った舞台俳優の桜井武史。しかしそれすらも失敗し、気分転換にと銭湯へ出かける。すると銭湯に居合わせた男・コンドウが転倒し気を失う。ちょっとした出来心から、武史は自分と彼のロッカーの鍵をすり替えてしまう。一方、コンドウは記憶喪失で入院。所持品から自分を桜井武史だと思い込む。奇妙に交錯するふたりの男の人生。さらに婚活中の女性編集長・香苗も加わって…。
2012年に公開された、内田けんじ監督の同名映画を舞台化した本作。個性的なキャラクターやコミカルでスリリングなストーリー展開はそのまま。鍵穴を模した美術セット、銭湯での転倒シーンなどでは、舞台ならではの視覚的な面白さが光る。またさまざまな部屋へと通じる黒と白の2枚のドアは、両極にいるふたりの男のキャラクター性を表す上でも、非常に効果的だった。
何をやっても中途半端。売れない舞台役者の武史だが、彼がすり替わったコンドウは、裏の世界では名の通った殺し屋だった。仕事は完璧、しかもそれに見合った報酬を受け取る。そんな自分とは正反対な男の人生に立ち入ったことで、自らの人生を見つめ直した武史。一方コンドウは目の前に現れた香苗の存在が気になり出す。「演技とは別人になることではない。もうひとりの自分を探すこと」という演技の“メソッド”が、コンドウの歩む道を大きく変えていく。他人の人生を借りることで、自分の人生に対して前向きになれた男たち。そんなふたりの人生を覗き見することで、観客は自らの人生を振り返り、やはり彼ら同様前向きに劇場を後にするのである。
初日を観劇した内田けんじ監督は、こんな言葉を寄せている。「自分の愛している全キャラクターが、キャラメルボックスの役者さんで愛情を持って体現されることは幸せでした。映画ではしないような舞台ならではのかけ合いもあり、僕、自分で書いたセリフで笑っちゃいました。『鍵泥棒のメソッド』って面白いなと(笑)」。原作者のお墨つきをいただいた舞台版。映画版と見比べてみると、また新たな面白さを発見できるかもしれない。
公演は6月1日(日)まで東京・サンシャイン劇場、6月5日(木)から10日(火)まで兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて上演。チケット発売中。
取材・文:野上瑠美子