コミックシーモアが展開する『シーモアコミックス』という独自のレーベルをご存じだろうか。このレーベルは、コミックシーモアを運営しているエヌ・ティ・ティ・ソルマーレにより設立されている。コミックシーモア運営のソルマーレが運営しているということは、膨大な読者データベースを持っているであろうことが想定される。本レーベルのスタートは2022年10月。すでに現在、『シーモアコミックス』の作品数は58作。ジャンルで見ると女性マンガ26作、少女マンガ18作、青年マンガ14作と、女性向けに力を入れているようだ。電子コミック配信サービスの利用率調査をまとめた資料を参考にすると、10代および20代女性の利用率が高いため、この傾向は納得できる。

青年マンガに面白い傾向

そんなシーモアコミックスの中で、作品数が少ない「シーモアコミックス青年マンガ13作」に目を向けると少し面白い傾向が見て取れる。13作中11作に「ミステリー・サスペンス」のジャンルに含まれ、12作に作品名あるいは作品内容に「復讐」という言葉が含まれている。13作品全てが、このどちらかに該当しているのだ。

さらにデータを紐解いてみる。最初にシーモアコミックスの青年マンガとして登場したのが『復讐の子守唄』という作品。これは、23年4月28日に配信開始となった。その後もコンスタンスにこのジャンルの作品は増えていき、23年は8カ月で6作品が配信開始となる。

24年は、2月と3月にそれぞれ2作品、4月から6月にかけて毎月1作品と、集中的に新規配信がスタートしている。そのうち完結した作品が五つあり、現在継続している作品は九つ。

3月27日には、コミックシーモアがある記事を掲載している。「シーモアスタッフが『本当に面白い漫画・本』をオススメ」という、ジャンルごとのオススメの中で「復讐漫画25選」を取り上げたのだ(https://www.cmoa.jp/article/revenge/)。ここでは、新規配信作はまだ取り上げられていない。

ここから、さらに大きな仕掛けがある。新規配信を継続している9作品は、全て5月31日に最新作の配信日をそろえており、同時に「この復讐劇に耐えられるか『レンタル・マーダー~復讐のプロ、お貸しします~』ほか先行配信フェア」を開催しているのだ。

このフェアでは、復讐を扱った作品が多くエントリーされた。ピックアップとして推している作品が前述の9作品と、23年12月に開始され、フェアの日に最終回を迎えたシーモアコミックス青年マンガ13作のうちの1作品。まさに、フェアに向けて準備をしてきたのだろう。結果、シーモアコミックス青年マンガ13作は青年マンガ・ミステリーのジャンルで、フェアの翌日6月1日に13作品のうち10作品がランキングに名を連ねている。

そして、フェアが終了した6月28日。今度は、「下剋上による復讐劇!!『2周目高校生の復讐日記』ほか先行配信フェア」がスタートした。

このフェアでは、『2周目高校生の復讐日記』が新規配信となった。さらに前回のフェアで5月31日にそろって最新作が配信された作品も名を連ね、フェア開始日に全て新作を配信している。

これだけの大仕掛け、まさに「データとクリエイターの融合」を標ぼうしているレーベルならではのプロジェクトといえよう。

今まではどうだったのか?

短期間で集中的に自社のレーベルを使いフェアを駆使してミステリー・サスペンスのジャンル、とりわけ復讐を冠した作品を推し進めているが、今まではどうだったのか。

コミックシーモアの青年マンガで、作品に関連する上位10ジャンルが以下のようになる(「復讐」というジャンルは存在しない)。

対極にあるような「ギャグ・コメディー」や、異性を感じさせる「ラブストーリー」「お色気」「ラブコメ」といったジャンルよりも、関連作品数がかなり少ない。青年マンガでは過去にあまり力が入れられていないジャンルである。

では、異なる主要読者層と比較してみるとどうだろうか。

読者層別では女性マンガとほぼ横並びながら、わずかにミステリー・サスペンスは青年マンガが作品数でトップではあるが、復讐の関連作品は女性マンガの半分以下にとどまっている。

さらにコミックシーモア以外の、作品数の集計ができるコミックサイトと「復讐」の関連作品を比べてみた。

いくつかのサイトと比較すると、コミックシーモアだけ青年マンガの復讐関連作品数が他の読者層より少ないことが見てとれる。

憶測ではあるが、コミックシーモアとしては「青年コミックにも『復讐』関連の作品を増やそう」と以前から考えていたのではないだろうか。そして、掲載作品を吟味するうちに「ただ作品を増やすだけでなく、一大プロジェクトを推進しよう」と実施。「作品を独自のレーベルでそろえよう」「配信日もそろえ、ジャンルとして固定読者を獲得しよう」「フェアを連続で開催して読者の注目を集めよう」、といったところだろうか。

なかなか大規模な仕掛けである。現在開催中のフェアが終了後も引き続き、復讐に関連するフェアが続く可能性は高い。このままコミック界に、復讐という一大ムーブメントを巻き起こすか、夏以降もコミックシーモアから目が離せない。

なお、本記事では今後数回にわたって、そんなコミックシーモアが推す「復讐」というジャンルから作品をいくつか紹介していきたい。(BCN+R コミックランキングリサーチ部)

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