新国立劇場バレエ『パゴダの王子』 撮影:瀬戸秀美 新国立劇場バレエ『パゴダの王子』 撮影:瀬戸秀美

新国立劇場舞踊芸術監督デヴィッド・ビントレー、有終の美を飾る『パゴダの王子』が間もなく開幕する。ビントレーが2011年に新国立劇場のために制作した全幕バレエ『パゴダの王子』。稽古場ではキャスト別に振付けの繊細な確認が行われており、さくら姫が兄を思う回想場面を、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエの初演に客演した小野絢子、福岡雄大のペアと、共に初役の奥田花純(全幕バレエ初主演)と奥村康祐がストーリーに合った動きに見えるよう、次期舞踊芸術監督の大原永子に指導を受けていた。別室ではビントレーが皇后エピーヌと4人の王が絡む場面を、ディスカッションしながらリフトの間合いやフォーメーションを修正しており、エピーヌの役を担う湯川麻美子、本島美和、長田佳世らが個性溢れる役作りを重ねていた。

新国立劇場バレエ『パゴダの王子』チケット情報

物語は、皇后エピーヌ(魔女)によって支配された王国と家族を救うために、勇気を持って立ち向かうヒロイン、さくら姫の冒険を描いたファンタジー。息子の死から立ち直れない皇帝に変わって権力を手にした皇后は、4人の王を外国から招いて条件の良い王にさくら姫を嫁がせようと企むが、その打算を強く拒んだ姫が、その場に現れたサラマンダー(実は死んだと思われていた兄)を追って、彼の王国であるジャングルに向かう。旅の途中、自然の驚異や魔物に襲われ、姫の強さが試されるが、すべてをくぐり抜けた彼女は、魔女の呪いによってサラマンダーの姿にされた兄に真実を打ち明けられ、兄と妹は力を合わせて皇后を追放し、帝国の平和を取り戻す。

この作品は、歌川国芳の浮世絵にインスパイアされたビントレーが、バリ島のガムラン音楽に魅了されたベンジャミン・ブリテンの世界を軸に、日本と英国の文化を見事に融合し傑作バレエを完成させた。喪失から再生をモチーフに持つこのバレエを、上演の年に自ら震災を体験したビントレーは、底の見えない深い愛情で私たちの不安を包み込み、芸術の力で復興に尽力してくれた。

彼の作品は、演ずる者にとって一切の妥協を許されない、難度の高いテクニックが必要とされるが、稽古場はいつも幸せに満ちた笑顔が絶えず、観客にもその充実した時間が伝わり、ビントレーワールドの虜になる。日本初演の『アラジン』そして、『パゴダの王子』という最高の贈り物と、数々のビントレーマジックを残して、彼はバーミンガムへの帰途に着く。だが、この4年間はビントレーとの始まりであって、その続きがある事をダンサーたちと観客は共に望み、オペラパレスに掛けられた素敵な魔法に心から感謝をしたい。

公演は6月12日(木)から15(日)まで東京・新国立劇場 オペラパレスにて。チケット発売中。

取材・文:高橋恭子(舞踊ジャーナリスト)