ベトナム戦争末期のサイゴンを舞台に、ベトナム人少女キムとアメリカ兵クリスの、激しくも切ない悲恋を描いたミュージカル『ミス・サイゴン』。初演から22年目を迎えた今年、新メンバーを迎え、さらに進化した新演出版で全国ツアーを行う。共に「念願の役」をオーディションで勝ち取った演技派俳優の駒田一と期待の若手、昆夏美に意気込みを聞いた。
『屋根の上のヴァイオリン弾き』など数々のロングラン作品への出演も少なくない駒田だが、意外にも本作への出演は初めて。初挑戦から10年越し、3度目のオーディションで役を掴んだ。「この作品はとにかく音楽が素晴らしい。言葉以上の想いや匂いまでが伝わる生の臨場感は、舞台ならではの醍醐味です。僕は劇場に入るといつも客席の一番後ろに立って、視界や音の響きを確認する。毎回『ここまで気持ちを飛ばすんだ!』という想いでやっています」
演じるのは、アメリカでの成功を夢見るしたたかなキャバレーのオーナーエンジニア役。通算805回もこの役を演じてきた市村正親とのWキャストだ。「エンジニアはずる賢い男だけど、そう簡単には成功しない。彼には何が足りないのか、稽古で探っていきたい。市村さんは“ホンモノ”なので同じように演じても到底、太刀打ちできない。真後ろではなく斜め後ろを行くような感じで、自分らしく人間臭い役にしたいですね。『レ・ミゼラブル』で共演した昆さんは、本当に努力家。今回は同じ初出演者同士、互いに手に手を取り合って……間にクリス(キムの恋人役)を入れてもいいですけど、助け合いながらできればいいなと。よろしくね、昆ちゃん!」
駒田の言葉を受け、昆夏美は「駒田さんは役者としても人としても尊敬できる方。ご一緒できて心強いですし、私も負けずに頑張りたい!」。デビュー3年目の新星ながら、初出演作『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット役を皮切りに次々と大役を射止め、本作ではトリプルキャストのひとりとして、ヒロイン・キム役に挑む。「想像よりも現実のスピードは速いけど、それが全然嫌ではなくて。デビュー当時こそ、大役を担うことに不安もあったけど。今は役をいただけたときが演じるときと思えるようになったので、精一杯頑張りたい!」。また、『ミス・サイゴン』は客席にいながら初めて舞台と一体化する感覚を味わった思い出の作品だと語る。「今回は演者としてあの感動を伝えたい。号泣するのか、呆然となるのか。観終わった後、何か心に変化があれば嬉しいですね」
公演は東京・帝国劇場にてプレビュー公演が7月21日(月・祝)から24日(木)、本公演が翌7月25日(金)から8月26日(火)まで。その後、8月30日(土)、31日(日)に新潟・新潟県民会館、9月4日(木)から7日(日)まで愛知・愛知県芸術劇場大ホール、9月11日(木)から18日(木)まで大阪・フェスティバルホール、9月22日(月)から28日(日)まで福岡・博多座、10月4日(土)、5日(日)に神奈川・よこすか芸術劇場にて上演される。
取材・文:石橋法子