(C)エンタメOVO

 ベストセラー作家・森林麻美が、自身のブログに「私の死体を探してください。」と自殺をほのめかす投稿をして消息を絶つ。麻美の夫・三島正隆(伊藤淳史)や正隆と不倫関係にある麻美の担当編集者・池上沙織(恒松祐里)がその行方を探す中、次々にブログが更新され、麻美を取り巻く人々の秘密が暴露されていく。なぜ麻美のブログが更新され続けるのか。麻美の目的とは…。


 9月3日からテレ東ほかで放送中のドラマチューズ!「私の死体を探してください。」は、メディアプラットフォームnote主催の『創作大賞2023』でテレビ東京映像化賞と光文社文芸編集部賞をW受賞した星月渉氏による同名小説のテレビドラマ化。ネタバレ厳禁の物語のカギを握る森林麻美役で入魂の演技を披露した山口紗弥加に、その舞台裏を聞いた。


-ネタバレ厳禁、驚愕(きょうがく)の展開続出の物語ですが、出演が決まって、台本を読んだときに感じた作品の魅力は?


 随所にちりばめられた謎解きの面白さはもちろんですが、私自身はこれでもかというほど、人間の恐ろしさや嫌らしさを見せられた気がして、好奇心が抑えられませんでした。せき立てられて一気に読んでしまうほど、最後の最後まで恐ろしかったです。


-「人間の恐ろしさや嫌らしさ」とは?


 登場人物たちの何かしらへの執着が、それぞれの人間を、それぞれに罪深くさせているように思います。 “ある出来事”に対して各人の目線からの解釈が語られるんですが、客観を無視した“主観”ってかなり暴力的で、私自身の倫理が崩壊するような感覚に陥ってしまって。善悪、生死、被害者と加害者の境界すら曖昧になるほどでした。


-想像を絶する感覚ですね。


 そうですね。読後しばらくぼうぜんとしました。訳のわからない罪悪感に襲われて、過去、軽い気持ちで誰かに放った一言を思い返していましたね。思わず、「私は正しく生きてきたかな?」と考えこんでしまって…。本当に衝撃でした。


-その物語のカギを握る人物が、山口さん演じる失踪した森林麻美です。事件の裏には、複雑に入り組んだ麻美の感情があるようですが、演じる上で心掛けたことは?


 正隆の浮気を目撃した麻美が感情を押し殺した状態で物語が始まるので、とにかく感情を表出させないことを一番に、できる限りの表現を削ぎ落とすことに注力しました。といっても、感情がないわけではないので、麻美の内にあるものの微妙な変化を、声の質感や温度、間合いなどで表現しつつ、心を動かさないように…。麻美がずっと抱えてきたものの重さや、場面ごとの彼女の「目的」を見失わないように気を付けました。


-演じるのはかなり大変そうですね。


 表現するべきことと、表現するべきではないことと…その線引きに悩みました。でも、考えてもきりがないので、「やるしかない!」と。


-その上、撮影は物語順に進むわけではなく…。


 初日がいきなりクライマックスの撮影だったんです。もう、なんてことだ!と(笑)。ただ、そこは麻美の感情が漏れ出してもいいところだと思ったので、抑えつつも、いや応なくヒートアップしてくる感じは無理に隠さなくてもいいのかな、と。といっても、計算して意図的に感情を開放するのではなく、伊藤さんとのお芝居の中から生まれたものに頼ってみました。

-そういう意味では、麻美の夫・正隆を演じる伊藤さんのお芝居に助けられた部分も?


 もちろん! 伊藤さんのお芝居には本当に助けられました。正隆は最低のクズ男なんですけど、人間力の高い伊藤さんが演じているだけあって、一周回っていとおしくなる瞬間があり、憎んでも憎みきれなくて…。最低で最高のクズ男でした(笑)。


-最低な正隆に伊藤さんの人間味が加わることで、魅力的な部分が出てきたと?


 はい。おかげで、余計に罪悪感を覚えてしまいました。台本を読んだときに感じたのは、得体の知れない罪悪感だったんですけど、実際に正隆を演じる伊藤さんの人間味を目の前にしたら、本当に申し訳ない気持ちになって…。でも、それは麻美には不必要な感情で、絶対に表に出してはいけないし…。ただ面白いなと思ったのは、正隆に肉付けされた"人間味"が、麻美を演じる私に与えてくれたものは罪悪感だけじゃなく、喜びだったり、優越感だったりもして、撮影中はとても複雑な心境でした。もしかしたら、麻美も私と同じようにさまざまな感情に翻弄(ほんろう)されていたのかなって。


-番組の公式サイトで「麻美の心に触れたい、その一心で演じました」とコメントされていましたが、演じてみていかがでしたか。


 彼女が経験したこと、彼女の思いを想像しながらシーンを重ねるたび、体が勝手に反応してしまうというか…堪えるのが、苦しかったです。その一方で、ミステリー作家として自分の人生を最高のエンターテインメント作品として提供する彼女の生きざまは、見事だなと。私もこの世界に身を置く以上、自分の私生活までまとめて「どうぞ楽しんでください」と皆さんに提供できたら楽しいのかも?と思う部分はあるのですが…でもやっぱり、麻美のように生きられない。どうしたって、守りたいものはありますから。信念を貫こうとする麻美の生き方は、本当にかっこいいと思います。極端すぎて、絶対に真似はできないけど…憧れる気持ちはありますね。


-山口さんは数々の作品でさまざまな役を演じられてきましたが、そういう気持ちになることはよくあるのでしょうか。


 こんなことは、めったにありません。それだけ、麻美に心を寄せていたんだと思います。もっと言えば、自分が麻美に乗っ取られたような感覚です。そのくらい、森林麻美という役柄には強力な引力がありました。本当に、出会えてよかったです。


-そこまでの体験ができるのは、役者冥利(やくしゃみょうり)に尽きますね。では、放送を楽しみに待つ視聴者へ、山口さんの考える本作の見どころを教えてください。


 謎解きは謎解きとして楽しみながら、人物描写を深く味わっていただきたいです。登場人物がそれぞれに抱える「執着」に注目していただけたら。私自身、このタイトルからは尋常ならざる、揺るぎない執着を感じます(笑)。誰に目線を合わせるかで、物語の見え方がまるで変わってくると思いますので、ぜひご家族やお友だちとご覧になって考察など“ドラマのその後”を楽しんでいただけたらうれしいです。


(取材・文・写真/井上健一)


 ドラマチューズ!「私の死体を探してください。」は、2024年9月3日から毎週火曜 深夜24時30分、テレビ東京ほかで放送。