木場伝内役の谷田歩

 “菊池源吾”の名で奄美大島に流された吉之助は、薩摩藩の支配下で過酷な生活を強いられる島民たちの姿を目の当たりにする。その薩摩藩の役人でありながら、やがて吉之助に共感し、親交を結んでいくのが木場伝内だ。演じるのは、舞台を中心に活躍し、鈴木亮平とも共演経験のある谷田歩。島編のロケ撮影の裏話や、鈴木とのエピソードを語ってくれた。

-木場伝内とはどんな人物でしょうか。

 薩摩藩から奄美大島に派遣されてきた役人で、薩摩隼人らしい熱い心を持った人物です。島に送られてきた吉之助と出会い、大久保からの手紙を仲介するほか、吉之助が島を離れた後は愛加那との手紙のやりとりを手伝うなど、吉之助を支え続けたと言われています。

-残された史実も少ない人物ですが、役作りはどのように?

 吉之助よりも9歳年上ということだったので、僕と(鈴木)亮平の関係そのままの感覚でやってみました。あとはもう、現場で感じたものを生かして…と思っていたら、吉之助との初対面のシーンがすごくて…。役人が島民たちから厳しく砂糖を取り立てているところに吉之助が現れるのですが、廃人同然のその姿が「絶対こいつには勝てない!」という迫力。自分の上司がやられているのに、全く手が出せない。それを見たら、そのとき感じた自分の気持ちそのままで演じることができました。

-木場は吉之助のどんなところに引かれて、親しくなったのでしょうか。

 役人の不正を目の当たりにした吉之助が、「許せんもんは許せん」と言う場面があります。今よりもずっと上下関係が厳しいあの時代、そう言える姿に木場自身も救われたのではないでしょうか。上役の田中(近藤芳正)が不正をしていることは当然知っている。もちろん、藩に収めるものは収めなければいけない田中の立場も分かるが、やり過ぎではないか…。そんなふうに思いながらも、自分では何もできずにいた。そこへ、まるで正義の味方のように現れたのが、吉之助だった。その姿にほれたに違いありません。

-ロケで奄美大島と沖永良部島にも行かれたそうですが、感想は?

 スタジオよりも、ずっと気持ちがいいですね。開放的だし、海も山もきれいで…。「西郷どん」のオープニングに登場する丘でも撮影させてもらったのですが、晴れているときにはクジラやウミガメが見えるような場所だったので、最高でした。

-そういった現地の空気を感じると、お芝居も変わってきますか。

 気持ちも解放されるので、明るくなります。だからといって現場の空気が緩くなるわけではなく、亮平もいろいろとアイデアを出したりして、お互いに熱い芝居ができました。おかげで、いつもより一段階上に行けたような気がします。加えて、他のキャストやスタッフとも一緒にお酒を飲めたので、スタジオで撮影しているときよりも密な関係を築けました。そういった空気感も、きっとドラマに反映されているはずです。

-鈴木さんとは舞台でも共演されたそうですが、印象は?

 ものすごく役に入り込みます。現場の雰囲気は主役で決まりますが、あんなに努力しているのに「頑張っている」という空気を感じさせず、明るく振る舞えるのも立派。本当にいい主役です。

-今回、鈴木さんと共演した感想は?

 思い切り声を張り上げて、まるで舞台のような言葉と体のぶつかり合いができたので、気持ちよかったです。役人に向かっていこうとする吉之助を、木場が体を張って止める場面なんか、亮平は体が大きい上に本気でやるので、こっちも必死で…。事前に2人で「こうしよう」みたいな話もしていたのですが、気が付いたらヘッドロックをしていました(笑)。でも、それも彼が引き出してくれたもので、いい芝居になりました。

-鈴木さんの熱いお芝居は、このドラマを引っ張っていますね。

 芝居をする上で常に「もっと何かないか?」と探しながらやっているようですが、聞いてみたら、それは渡辺謙さんから受け継いだ“謙さんイズム”だそうです。

-谷田さんはこれまで、「江~姫たちの戦国~」(11)、「真田丸」(16)といった大河ドラマにも出演されていますが、「西郷どん」の魅力はどんなところに感じていますか。

 今までは1、2話ぐらいしか出演していなかったので、ここまで主役に絡むことができる役は初めてなんです。撮影に入る前からワクワクしていましたが、相手が亮平だったおかげで想像以上に楽しくて。また、今回は幕末が舞台ということで、戦国よりも時代が現代に近いので、より今の自分に近い気持ちで取り組むことができるのも面白いです。

-撮影以外で、島の思い出はありますか。

 島の方は皆さん温かくて親切でした。よく覚えているのは、沖永良部島で撮影が終わった後、亮平と飲みに行った夜のこと。最初は僕たちの他に一組ぐらいしかお客さんがいなかったんです。ところが、皆さんが次々と「鈴木亮平がいる」と電話をかけたらしく、数時間後にはお店がいっぱいになってしまって…(笑)。でも、皆さんフレンドリーで、ものすごく盛り上がって楽しかったです。

(取材・文/井上健一)