スマートウォッチの裏側中央に仕込まれたLDEと光センサーで心拍数を計測する

乳バンドなしに心拍数が測れるというのは素晴らしい。フィットネスや健康管理で心拍数の把握は有益。ところがこれ、かなり面倒なのだ。しばらく前までは、胸にセンサーをつけて測っていた。通称「乳バンド」。フリスクの箱ほどの大きさのセンサーで、ゴムベルトで胸の中央付近に固定して心拍数を検知。本体やスマートフォン(スマホ)に無線で信号を送り心拍数を計測、分析する。心電図の計測と同様の原理で測るため、精度は高いが結構な仕掛けだ。プロの自転車レーサーが夏場、暑さの為ジャージをはだけて走っているときに、胸に巻き付けた乳バンドが見えることがよくある。パフォーマンス管理の為、今でもスポーツの場面では重用されているようだ。とはいえ、一般人には煩わしくてハードルが高い。それが今では腕時計で測れてしまう。スマートウォッチの裏側、緑色にピカピカ光っているあれだ。血流を検知して、心拍数を測っているわけだ。

スマートウォッチは技術の結晶みたいなもの。小さな筐体に、よくもまあ、あらゆる技術を詰め込んだものだと思う。身に着ける、という特徴を生かして、特に体の状態を検知する機能が進歩した。そのため、健康管理やスポーツの場面で相性がいい。時計というより、もはやマルチボディーアナライザーと言ってもいいだろう。ファーウェイが今秋発売したスマートウォッチもその一つ。例えば「HUAWEI WATCH GT5」では、心拍数計測は言うに及ばず、コロナ禍で認知が高まった血中酸素濃度の計測、さらに睡眠時無呼吸症候群の発見に役立つ睡眠時の呼吸測定、ストレスや情緒の測定までできてしまうというのだから驚きだ。かつて同社は日本のスマホ市場で大きな存在感を堅持していた。しかし米中貿易摩擦の影響で、GooglePlayやAppStoreを搭載できなくなり、スマホ市場での勢いを急速に失った。もともと技術力が高い同社だが、現在の日本市場では、その力をスマートウォッチに注いでいるともいえるだろう。スマートウォッチ用のスマホアプリは、同社サイトから直接ダウンロードして利用する。初期設定時に表示されるメッセージに従ってインストールすれば特に問題なく利用できるだろう。この方式はドローンや小型ジンバルカメラで知名度が高まっている、DJIの製品と同じだ。

スマートウォッチに話を戻すと、身に着ける小型身体計測機であれば、当然健康管理やスポーツの場面で大いに役立つ。新製品では、特に多くの「ワークアウト」に対応。縄跳び、ウォーキング、ランニング、自転車、ハイキング、登山、水泳、ダイビングなどなど100種類以上のモードがある。ランニングフォームの検出、なんて機能も備えている。さらに、GPSとマップ機能も組み合わせて活用できるため、登山やマラソン、自転車のツーリングなど、特に長距離移動を伴うスポーツには威力を発揮しそうだ。同じく新製品で特徴的なのがゴルフ機能。日本全国2200以上のゴルフコースに対応し、プレイには不可欠の正確な距離測定を実現する。上位モデルの「HUAWEI WATCH GT5 Pro」では、グリーンの傾斜までわかるという。全くグリーンが見えない位置からグリーンの方向が分かる機能も搭載。ブッシュに打ち込んでしまうことが多い初心者にも重宝されそうだ。

マルチボディーアナライザーともいうべきスマートウォッチを、あらゆる場面で活用するということは、極めて個人的な身体データをスマートウォッチやそのメーカーに預けるということも意味する。ファーウェイ製品に限らず、あらゆるスマートウォッチや活動量計の利用に言えることだ。活用するにあたってはそのリスクはしっかり知っておきたい。現代社会では便利なサービスや機器を利用するのと引き換えに、何らかの個人情報を提供せざるを得ない場面が数多くある。便利になればなるほど情報流失の潜在的なリスクは高まる。どこまでの個人情報の提供を許容してどこまでの利便性を得るのか。我々に迫られている究極の選択だ。まあ、私が寝ている間に「実は息が止まっている」というトップシークレットが流出したとて、政治家でもないわけで、具体的な被害は思い浮かばないのだが……。(BCN・道越一郎)