なんでも知っているわけではないという、素のままの研究者の姿を若い人に見せる
宮本:小学生と話していてわかったことは感受性が豊かな子に科学をぶつける大事さだけでなく、素のままの研究者の姿を知らせるのがいいと思ったんです。
小学校の子どもって先生は神様じゃないとダメなんですよね。わからないことを聞いたら100%間違いなく答えてくれる。そうじゃないとモンスターペアレントなど怒る親も増えている。だから先生は完璧であろうとして、それが社会的にも求められています。
でも、科学はわからないことだらけですから。完璧に答えられない方が普通なんです。
そこで思ったのが、僕の仕事のひとつとして、子どもに聞かれても「わからないよ」と答えることなんじゃないかと。たとえば、僕は日本でも火星について多くの論文を書いている研究者の一人だと思うんですけど、あるとき火星の話をして、子どもが秀逸な質問してきたんです。
「火星に山はいくつあるんですか?」と。その質問に対して僕は「知らないよ」と答えました。僕は日本でも火星について詳しい人間のひとりとして自信を持って答えるけど、「そんなことは知らないよ」と。
そうすると子どもは「え?」っていう顔をするんです。火星のデータがとれていると話したから質問してきたわけです。でもデータはとれているけど、高くなっている山を数えた人はいない。
「誰もやったことがないから、それを君がやったら世界で初めて火星にいくつ山があるか数えた人になるよ」と言うと、子どもはやっぱり喜ぶんですよね。
僕の子どもの頃を思い出してみても、先生に質問して何がつまらないかというと、先生は必ずと言っていいほど答えを言うんです。無理にでも答えを用意する。
そうすると子どもからすれば、「お前ごときが考えていることなんてみんな考えている。すでにわかっていることだから」と言われている気がするんです。
でもやる気を出すのは僕は逆だと思うんです。「わかりません。知られていません。それを君が一番初めに調べるかもしれませんよ」と言ってあげる方がよっぽどやる気が出ると思うんです。「これだけわかってないことがあるんですよ」と。大人が言うことはちょっと恥ずかしいことかもしれませんが、僕らは専門家として「わかりません」と、きちんと言うのがひとつの仕事なんじゃないかな、と思ったんです。
サイエンスはわからないことだらけで、実際のところ「どういうわけかわからないけど、これでうまくいってます」という理論ばかりなんです。なのでやることはたくさんあって、若い人たちがこれからたくさん勉強して、今から大発見できる宇宙がこれだけあるんだよ、と。それを知ってもらいたい。
こうやってラフな格好で仕事をしているのが最前線で活躍する研究者ということをここで見てもらって、「こんなもんか。これなら自分でもできるよ」と若い人たちに思ってもらえると嬉しいからです。
もちろん宇宙の研究だけじゃなくていろいろな分野に羽ばたいてほしいわけですが、宇宙の分野で先端いっていると言われる人たちもこんなもんなんだから、だったら自分が興味のある政治や経済で、自分だって世界と闘って勝てるはずだ、と思ってくれたらいいですね。
まだまだわかっていなくて、自分ができることがたくさんあるんだということを知ってもらいたい。
――実際に完成したサイエンスエリアを見てみて、いかがですか?
宮本:ここはもう満足ですよ。毎日少しずつ展示データも変えてますからね。今のところ毎日必ずアップデートしているんです。
今日やったのは「小惑星の数がいま現在、何個と知られています」というところです。技術が進歩して、今は小惑星の数って望遠鏡で自然に抽出しているので、何日か経ったら10個20個、発見数が増えるんです。
で、今65万個くらいで、ちょっと前まで60万個、そのもっと前までは48万個とか言っていたので。ささやかですけど、日々更新される最新の情報を見せることができます。
あと火星から届くデータが反映されるディスプレイがあるのですが、これはもうほぼ常に新しいですね。火星にある探査機から普通はサイエンスチームに流して2~3ヶ月研究してそこから一般に流れるはずなのに、それより前くらいのタイミングでここに流してもらえていますからね。
また、ここで作業する僕らにとってもサイエンスエリアは便利で「あれなんだっけ?」と思ったときに、展示のところまで走って行って「あ、こうだった」と調べられたり(笑)。