好きな人はめくちゃくちゃ好きだけど、苦手な人も多い。良く言えば「個性的である」、悪く言えば「アクが強い」。そんな好みがハッキリ分かれてしまうアーティストの代表格、長渕剛。

昔の『順子』の頃の美声が好き! 『とんぼ』の“長渕キック”は良く真似したなんて。長髪で澄み渡った声のフォークシンガー、チンピラ紛いの気さくなにーちゃん、泣く子も黙るヤクザのアニキ、かと思えば、継ぎ接ぎの民族衣装で「セイヤ!セイヤ!」……時代と共に歌声も風貌もキャラ?も変わっていた長渕剛。ただ、そんな外見と声の変化と裏腹に歌の本質は変わっていない。いつだって嘘はつけない真実の歌なんです。

 

「生きる」「怒り」「叫び」という人間の感情をそのまま歌にしてきた、そんな集大成とも言える『Tsuyoshi Nagabuchi All Time Best 2014 傷つき打ちのめされても、長渕剛。』が発売されました。何故このタイミングでベストなのか?という問いに対し、「レコード会社のタイミングだから、軽率なビジネスにうっかり乗ってしまった(笑)」と答える正直者っぷり。

36年のキャリアがあるわけで、コアなファンからすれば「またベスト?」や「あの曲が入っていない」などあるにせよ、こうしたベストは新たな発見になったり、音源がたくさんありずぎて、どれを買えばよいのか解らないという新規ファンにはありがたいもの。

今回、マスタリングを手掛けたのはSadeやU2、近年ではテイラー・スウィフト、アデルなど錚々たるアーティストを手掛けるトム・コイン。びっくりするくらい音が良くなってます。アコースティックナンバーはより繊細に美しく、バンドサウンドはより骨太に。至るところ細かく調整されており、コアなファンにも新たな発見があるのではないかと。

あの頃は良かったけど、最近のマッチョになってしまった長渕には正直ついて行けないなと思っていた人も、今でも変わらず好きだって言う人も、そして最近好きになった人も全方位網で満足出来るベストだと思います。実は偏見やイメージで実はちゃんと聴いたことがないという人も多いんじゃないでしょうか。

さて、そんなベストアルバム全58曲の中から10曲を選び、エピソードを交えながら、変わっていったものと変わっていないもの、そんな長渕史を見て行くことにしましょう。
 

『巡恋歌』(1978年10月5日リリース シングル)

デビュー曲、厳密に言うと再デビュー。前年に一度デビューしたものの、“ナガブチゴウ”という名前と、演歌・歌謡曲路線の売り出し方に耐えかねて一度九州に帰る。そして新たに挑んだのがこの曲。

自信を持って多くの関係者に聴かせたものの、反応は返ってこなかった。だが、コンテストで優勝し、再デビューが決まると手の平を返したように絶賛された。その怒りがライブにおける最後の鬼のようなギターのストロークとハーモニカの応酬に繋がったとも。

36年間、ずっとライブで歌い継がれてきた曲。タイアップが台頭していた1992年に改めてリアレンジされ、ノンタイアップ、ノンプロモーションでリリースされヒットしているが、今回はオリジナル版での収録。編曲ははっぴいえんど、ティン・パン・アレーの鈴木茂。