最大のブラック要素は“業界の構造”

前述した肉体的・精神的・社会的ストレスをすべて耐える人がいたとして、最大の問題は業界そのものが、修復できないレベルでブラックという点です。

ニュースで批判されている飲食チェーンなどのブラック企業は基本的に「安価なサービスで客を満足させるために従業員を犠牲にする」経営方針ですが、探偵業界は従業員にも客にも犠牲を強いる悪徳業者が多くはびこっています。そして自浄作用はありません。どこよりも悪質な詐欺を繰り返している有力探偵社が業界団体を長年にわたって牛耳り、顧客からのクレームを握りつぶしながら、まっとうな調査活動をしている中小の探偵社に有形無形の圧力をかけ続けています。

筆者はキャリアを積むごとにこの現実と直接向き合うことになり、最終的には探偵業界を「将来性なし」と完全に見限りました。どんなに誠実な仕事を積み重ねても、不届きな探偵社がいるせいですぐ信用をゼロに戻される。賽の河原で無限に小石を積んでいる気分になってしまうと、どんなハードな調査現場にも耐えてきた精神が一気に崩れたのです。

もちろん今でも誠実に調査に取り組んでいる探偵社はたくさんありますし、依頼された調査を成功させた時の達成感、依頼者が感謝してくれる笑顔を見た時の嬉しさなどは素晴らしいものです。しかしこの記事で述べたように、仕事として本気で探偵業を志す人には数多くの困難が立ちはだかっています。

それらに負けず若いパワーが腐敗と癒着の構造を変えてくれるか、それとも今のまま「うさんくさいブラックな業界」としてあり続けるか。なかなかマスコミに注目されにくい業界ではありますが、これからの動向を見守っていきたいと思います。

どこで間違えたのか研究者の卵から探偵へクラスチェンジ後、足を洗った現在はライター稼業。いまだに尾行を気にして振り返る癖が抜けません。記事の守備範囲はネット、現実世界に関わらずちょっぴりアングラ系を好みます。